四季報を活用すれば、一般の個人投資家であっても、機関投資家と対等になれる―――。これは大手証券会社で機関投資家営業に携わっていた私の経験から、声を大にして伝えたいことだ。
機関投資家の企業分析力とコーポレートアクセス(企業と直接コンタクトできる力)は圧倒的である。一介のセールスマンの私にはまったく太刀打ちできなかった。だからこそ私は、自分が得意とする四季報読破で、「気づき」を提供することに徹したのだ。特に私が注意してみているのは次の3つである。
これら3つは会社が大きく変化し、転換する前触れである。読破するわけではなく、本当にどこからでもよいので、パラパラめくって、コメント、チャート、業績を見てほしい。1日5分でよい。10倍株はちょっとした「気づき」から見つかるのだ。
「オリンピック開催決定⇒競技場・関連施設の建設=建設株」という単純な図式だけではダメだ。「建設会社に仕事がまわれば現場で必要になるものは何か」「現場労働者が潤うと何に消費するか」など、想像力を豊かにして幅広く考えることがお宝銘柄にたどり着く近道なのだ。「風が吹けば桶屋が儲かる」的発想で、連想ゲームのようにアイデアをつなげていくと、こうしたお宝銘柄に行く着くのだ。ではオリンピック開催時、オリンピックにまったく関係なさそうなのに、大きく株価を上げた銘柄は何か。
例えば1964年の東京オリンピックでは、国会議事堂に赤じゅうたんを納入する繊維企業、住江織物(3501※証券コード)。そしてもう1社が、当時の四季報の会社「特色」欄に「創業明治42年の古い繊維機械メーカー」と書かれていた津田駒工業(6217)だ。株価上昇率を比べれば、住江織物は10倍、津田駒工業は18倍と突出して高い。
この2社は社会変化の恩恵をフルに享受したものと言える。ここで一番大事なキーワードは、四季報の【業況】に記されている「生活の洋式化」と「自動車ブーム」である。これがまさに当時の「世の中の大きな変化」だったのだ。
オリンピック開催に向けて競技場やホテル、新幹線、道路などが建設ラッシュとなる中、直接的に恩恵を受ける建設株に注目するという発想は間違っていない。しかし、それ以上に人々の意識や気持ちがどう変わったか、そして行動はどう変化したかを知ることのほうがもっと重要だ。
10倍株探しで、私が一番重視しているのは「急成長」だ。そもそも成長とは何かだが、成長とは売上高の伸び、つまり「増収率」であり、その数字が20%以上のものが急成長していると考えている。増収率20%以上を簡単に見極めるコツがあり、それは売上高が「4年で2倍」になっているかどうかである。
稼ぐ力を示す「営業利益率」にも着目してほしい。残念ながら四季報にはその数字が記載されていないので、「営業利益率(%)=営業利益÷売上高×100」で計算する。一般的には10%以上あれば「稼ぐ力」のある優良企業と判断してよい。
私がチェックしている3つ目のポイントは経営体制で、オーナー社長のオーナー企業であるということだ。その見分け方は四季報の【役員】欄にある社長もしくは会長の名前が、【株主】欄の上位株主にあることである。
一方、オーナーと筆頭株主が別の人物の時もある。一番避けるべきは、その株を売ることを前提としている投資ファンドが筆頭株主になっている場合だ。また、オーナー一族の名前が上位にズラリと並んでいる場合は、相続対策で上場している可能性もあるので注意したい。
四季報の2018年1集新春号には巻頭特集として、「10年前比較ランキング」が掲載されていた。中でも「株式時価総額」のランキングを分析した結果、時価総額が10倍となっている銘柄は10年前の段階で上場から「5年未満」が61%、経営形態は「オーナー系・同族」が80%と大半を占めていたことだ。
四季報2018年1集新春号に掲載されていた「時価総額ランキング」は非常に有益な情報の宝庫だった。1位に輝いたのは、RIZAPグループ(2928)の238.8倍だった。そこでRIZAPグループについて同社の大化けした変遷を検証していきたい。
もともとは2006年5月、「健康コーポレーション」という社名で札幌アンビシャス市場に上場し、四季報にはじめて登場したのは、翌6月発売の2006年3集夏号だった。当初は単品販売で突っ走っていたが、2005年3月期の売上高9億円を2年後の2007年3月期には107億円まで12倍に拡大させるなど急成長していたこともあり、先行き期待から上場初値は公募価格5万6000円に対して約3.5倍の19万4000円と好スタートを切った。
上場から1年ほどは株価も堅調に推移していたが、2007年4集秋号に「『豆乳クッキーダイエット』は、類似品急増に加えエクササイズDVDの大ヒットが痛手で下降線」とコメントされ、株価も下げ始める。その後決算で上場初となる営業赤字に陥ったことで株価はさらに続落し、ついに当時の高値から30分の1の水準まで売り込まれることになった。
その後売り上げは落ち込んだものの営業利益は黒字に転換し、株価は反転する。本格的な株価上昇の要因は、四季報2009年3集夏号のコメント「【消耗品ビジネス】美顔器は本体を低価格に抑え、定期購入の化粧ジェルで利幅稼ぐ消耗品ビジネス」で読み取れる。つまり、ビジネスモデルを大転換させたことが功を奏したのだ。
この消耗品のビジネスモデルは、機器を販売したときにだけ売り上げを計上するのではなく、販売後の使用が見込まれる消耗品で継続的に利益を稼ぐストック型のモデルだった。
2009年4集秋号のコメントは「【反省】一発屋で終わった豆乳クッキーの反省から社長直轄で商品開発に注力、波状的に投入。次の目玉は低価格の消耗品ビジネス型家電」。ここからもビジネスモデルを完全にストック型に転換したことがうかがえる。
次の転換点は、2012年3集夏号のコメント「【新事業】個人指導型の会員制減量トレーニング事業化、東京・神宮前に1号店」に表れている。これがのちに「結果にコミットする」ことで有名になった「ライザップ」の誕生である。1年後の2013年3集夏号では「新たな柱の減量ジムも客数順調に伸び黒字化」とコメントされ、ライザップの黒字化をきっかけに2010年から3年ほど横ばいだった株価も高値を抜けて再び上昇基調に入った。2014年4集秋号では「【ライザップ】入会金5万円、2カ月基本コースの料金が30万円。減量事例がメディアで多数紹介され認知度高まる」とコメントされ、かの有名なあのテレビCMを誰もが認識するようになった。その後、さらに株価の上昇を加速させたのが2017年2集春号のコメント「【M&A】積極化方針だが赤字会社の買収中心でのれん資産は低水準」にある、「M&A」というキーワードだ。買収によって売り上げを拡大しながら、次々にシナジー効果を狙う成長段階に入っていくのだった。
株価の大底は、業績が大きく落ち込んだところから「減収・黒字転換」のタイミングだったのもわかるだろう。
「四季報アーカイブ(オンラインの有料サービス)」を活用して過去の四季報記事を参照し、その企業のこれまでの変遷を調べれば、株価の背景が見えてくる。同じようにほかの成長銘柄でも、その理由を探ってみてほしい。
まず巻頭3ページの「各号のポイント」と巻末の「編集後記」を読む。中でも特に重要なのは数字の表の「市場別決算業績集計表」である。
10倍株を探そうと思ったら、「テーマ」に乗っていて、かつ「上場したて(=つまり最近上場した)」の「成長株」という3つの条件に合う銘柄をみたいと思うだろう。それらは以下の番号に集中している。
・3100番台、3200番台、3400番台、3500番台、3600番台、3900番台
・6000番台、6100番台、6500番台
【上場】欄には株式市場に上場した年月が記載されている。10倍株を探すための「ポイント(4)上場5年以内」はここで確認できる。
一般に会社の大きな変化は、コメント前半部分より、後半の【見出し】およびコメントの中に書かれていることが多い。四季報の強みは「網羅性」「継続性」「先見性」であり、特長は「独自のコメント」と「独自の来期予想」にあると考えている。四季報のコメントは当たる・当たらないで議論するものではなく、「参考意見」としてとらえるのがよいと思う。
「自己資本比率」は、その会社の健全性が判断できるので重要だ。個人的には「50%±20%」が妥当な数字だと考えている。
【キャッシュフロー】欄は「資金繰り」や「お金のやり取り」が表されている。お金のやり取りが止まると破産するので、私はこの欄を「生命維持装置」と見ている。
【株主】欄で、「ポイント(3)オーナー経営者で筆頭株主」あるいは、ソニーやホンダのように「経営コンビの二人三脚」であるかどうかを調べて、10倍株投資の対象になるかどうかを見極める。
【業績】欄の「売上高」の数字を上から下に見て4年で2倍になっていれば「成長株」と判断していい。
株価サイクルは一般的に「減収増益」で大底を打ち、「増収増益」で続伸し、「増収減益」で天井をつけ、「減収減益」で続落するとされる。
割安株は、コメント欄に何か変化を感じられたときが狙い目だ。
チャートは、株価の動きが一目でわかるよう白と黒で表すローソク足を用いる。株価の上昇・下落が一目瞭然に認識できることが、このローソク足のすごいところで、その便利さから世界でも「キャンドルチャート」として広く使われている。
移動平均線は「過去の平均」なので遅行指標であり、あくまでトレンドを確認するチャートとして見るとよい。
四季報は「よい銘柄を探す」ために活用するのではなく、「おもしろいネタを探す」という視点で見るとむしろ視野は広がる。「よい銘柄」と「おもしろいネタ」が同時に見つかるチャンスもあるので、ぜひ実践してみてほしい。
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株式投資をするなら、会社四季報を読めるようになりたいですよね。しかし、誌面には情報がたくさんありすぎて何をどう見ていいのか分からないという方は多いと思います。かつての私もそのひとりでした。本書は、四季報誌面の構成を解説しながら、10倍、100倍株を狙えるような銘柄の条件を4つのポイントで解説しています。四季報の読み方が分かると読むことも楽しくなりますので、投資を始めたばかりの人で四季報の読み方を知りたい人におススメの1冊です。- かたやま りえ -