リタイア期前後からの投資は、これから資産を作っていく若い世代の投資とは大きく異なる。これまでの貯蓄や退職金、相続財産など、手元にあるまとまったお金を堅実に運用し、必要なタイミングで使っていくことが求められる。
「シニア投資」は現役世代が行うような「資産形成」のための投資ではなく、「資産運用・管理」のための投資にあたる。老後資金をできるだけ減らさないように効率よく使っていくために必要な、大切な資産を守る投資である。
シニア投資には5つの鉄則がある。それぞれ見ていこう。
投資において、精神的な安心は大事だ。投資で想定外の動きが起こると、そのストレスに勝てず、理屈ではわかっていても感情で判断を誤ってしまうことがよくある。
資産形成中の若い世代であれば、長時間かけて投資した資産が元の価格に戻るのを待つこともできるが、シニア世代でまとまった資金を投資している場合はそれもできない。だからこそ、値上がりを期待し大きく儲けようとして、ハラハラさせられるような商品を選ぶことは避けるべき。
仕組みがわかりにくい商品を買うことや、いくつもの商品を同時に買うことは避けた方がよい。人はどうしても年数が経つにつれて、運用の状況が把握できなくなる。
実際に投資をしている高齢者の多くが、何に投資していて、このまま続けるべきかやめるべきかわからなくなっている。商品の設計が複雑なほど、自分に合っている投資かどうかの判断も難しい。そしていつの間にか大切な資産を失ってしまう恐れもある。
金融機関でよく提案される投資信託やファンドラップは、「コスト負け」を起こす可能性がある。
コスト負けとは、例えば、買ったときの価格より3%値上がりしても、運用コストが5%かかっていたら運用収支はマイナス、という状態のこと。
投資信託は購入時の販売手数料に加えて、信託報酬(保有期間中、運用に対して支払う費用)がかかる。運用利益が出ていると、うまくいっていると錯覚してしまいがちだが注意しておく必要がある。
シニア投資では、いざというときにすぐに現金に戻せる状態としておくことが理想。マイホームのリフォームや、介護施設や高齢者住宅への入居、自分の病気や怪我、子どもの結婚や出産など、定年後でもまとまったお金が必要になることはある。
5年単位くらいの大きな支出を見据え、90歳くらいまでの資金計画を考えておくとよいだろう。
一般的に投資の身近な相談相手は、銀行や証券会社の窓口、そして営業担当者とされているが、金融機関の担当者は自社の商品販売の予算に沿って提案をしている可能性を否定できない。
若い人ほど金融機関を頼らず、年齢が高い人ほど金融機関を信用しているというアンケート結果もある。これは金融リテラシーの差によるものと思われる。最初は金融機関の窓口に相談するとしても、提案された内容についてはセカンドオピニオンとして第三者の意見を聞くべきだろう。
「資産運用・管理」のための投資であるシニア投資では、減らさないことが第一だ。様々な投資本やウェブサイトに書いてある投資手法は若い世代が資産形成に取り組む観点では間違っていないが、シニア投資の観点では勧められないものも多い。
シニア投資の鉄則や目的を踏まえると、「債券」が投資しやすい。
債券とは、国や企業などが、広く不特定多数の投資家から資金を借り入れる際に発行する証書のこと。安定している分、リターンは少ないが、まとまった資金がある人には向いている。
1つ目の魅力は、抜群の安定性。債券は満期が決まっていて、その満期を迎えると買ったときの額面で払い戻されるという仕組みになっている。
当然これだけでは現金で持っているのと変わらないが、そこに金利分が加わり、その分だけ増やすことができるというのが債券投資のメリット。
2つ目の魅力は、預貯金を上回る金利。債券は、購入する時点で何%の金利がつくかが決まっていて、それが定期的に支払われる。購入時点で、満期時に受け取ることのできる金額がわかる点も他の金融商品と異なる。
3つ目は、ほったらかしでOKの安心感だ。満期までの期間や金利が決まっているので、買ってしまえばあとは何もする必要がない。保有期間中、金融機関に支払うコストもかからない。
4つ目は、将来の資金計画が立てやすいこと。例えば満期5年の債券なら、5年後の決まったタイミングで現金化でき、金利もつくため効率的にお金を増やすことができるのはシニア投資にとって大きなメリットである。
株や投資信託のような、損益の面でも心理的な面でも市場に大きく左右される高リスク商品は、計画的に現金化することが非常に難しい。
金融機関の窓口で債券を買おうとすると、複数の債券を投資対象とした「債券中心の投資信託」を勧められることがあるので、注意しなければならない。「債券投資」と「債券中心の投資信託」とは似て非なるものだ。
債券の魅力として、保有期間中に継続コストがかからないことは既に述べたが、「債券中心の投資信託」となると、販売手数料に加えて保有期間中に毎年高い運用手数料(信託報酬)を取るものもある。
実際に債券での投資をスタートするときは、以下の6つの基準に注意して銘柄を選択しよう。
(1)発行体
債券を発行している国や企業が信用できるかどうか。
(2)利率
元本に対して、どの程度利息が付くか。信用度の高い債券ほど金利は低くなる傾向がある。
(3)利回り
投資額に対して、利息や償還差損益(または売却損益)などを含めた年単位の収益の割合のこと。特に既発(発行済のもの)の債券を購入するにあたっては、利率ではなく利回りによって判断する必要がある。
(4)償還日
満期までの期間。
(5)通貨
どの通貨で取引するか。為替変動リスクが少ない通貨のほうが資金計画を立てやすい。
(6)格付け
債券の安全性をはかる基準。最も高い格付けが「AAA」。そこから「AA」、「A」とランクが下がっていく。投資適格水準とされる「BBB」以上なら、過去のデータから見ても信頼性が高いといえる。
シニア投資でまずやるべきは、今後の資金計画を立てること。
・手元の資金はいくらか
・月々の理想の支出はいくらか
・まとまった大きな支出がいつ、いくら発生する予定か
・投資に回していい資金はいくらか
これらを洗い出していくと、どの程度の利率で運用すればいいのかがわかるはずだ。
例えば、65歳で年金が月20万円もらえ、手元に2000万円(内、投資に回せるのは1000万円)あるケースを考える。月々の支出は26万円で、5年後に息子の結婚式で100万円、10年後には自宅リフォームで200万円が必要というなら、投資資金1000万円を69歳まで年利4%の債券で運用し、70~79歳までは500万円をまた年利4%の債券で運用する、といったイメージ。
計画ができたら、あとは条件に合う債券を買うだけだ。債券は、証券会社が中心に取り扱っている。ただし株式ほどオープンな市場ではないため、担当者などから情報を手に入れる必要がある。そのときは、「投資信託ではなく、個別銘柄の債券で条件のいいものを見せてください」と伝えよう。
債券の購入価格には幅がある。基本的に新しく発行されるときには100円で始まり、満期のときには100円で終わる。
発行から満期までの途中で誰かが売りに出すと、その「既発債」の価格は100円ではなく市場価格によって決まる。
売買の単価も様々だ。日本円建ての新発債券は100万円単位が一般的で、米ドル建ての新発債券は1000米ドルからが多い。既発債になると単位が大きくなる傾向にあることも覚えておこう。
日本国内で発行される円建ての債券はシニア世代の資産運用にお勧め。為替のリスクがないのは大きなメリットである。
ただし、現在国内で個人が買える円建て債券は、国が発行する個人向け国債がメインで、企業が発行する社債は魅力的といえるほど高い金利を出しているものがほとんどない。
また、個人向け国債は金利が非常に低く、運用効率という点ではあまり魅力的ではないので、購入するとしたら金融機関で不定期に行われている個人向け国債の購入キャッシュバックキャンペーンなどを利用するのもひとつの手だ。
個人向け国債よりも金利が高く、十分な信用力を備えているものに米ドル建ての普通社債がある。為替の影響があるものの、信用力と金利のバランスがよく、シニア投資に適しているものが多数ある。
債券の一種に「劣後債」と呼ばれるタイプがある。正式には「劣後特約付社債」といい、債券を発行した企業に倒産など万が一のことが起こった場合、一般的な社債に比べて元本と利息の支払いが後回しになるというもの。
万が一の際に不利な分、普通社債より相対的に高い利率が設定される。高い利回りの債券を探しているなら、劣後債は有力な選択肢になるといえる。
銀行は現在、超低金利や資金需要の減少により、個人が預けている預金を融資に回して収益を上げることが難しくなって、その分、投資信託や外貨建て変額保険などの販売に力を入れている。大手証券会社も、投資信託やファンドラップなど多種多様な商品提案で手数料を得るビジネスモデルを展開。
そうした状況において、現場の支店には、顧客の相談に応じるための資産設計やライフプランニングについての知識はほとんど求められず、会社から予算化された商品販売やその他の業務を達成するため、窓口での話は個別の金融商品の紹介になりがちなのだ。
これからの時代は、個人投資家にも一定の「金融リテラシー」が求められる。金融リテラシーとは、お金や投資に関する知識や判断力のことをいい、社会の中で経済的に自立していくために必要なもの。難しそうに思えるなら「やってはいけない」お金や投資の事例を見て、資産運用で失敗しないためにはどうすればいいか、を考えることから始めてもいい。
資産運用でまず行うべきは、「アセットプランニング(ライフプラン+資産運用・管理)」を考えること。
家族構成、年間収支、支出や資産などから「ライフプラン」を描き、預金や保険、投資などの「資産運用・管理」も行う。
20~30代のうちは、ライフプランを設計する方に重点をおく。年齢があがるにつれ、ライフプランが安定し、資産が増えれてくれば、資産運用・管理が重要となる。
若い頃なら自分で勉強して投資知識や経験を積むこともできただろうが、ある程度の資産規模や年齢になってくるシニア世代では、求められる知識や実務も複雑になってくるため、信頼できるアドバイザーを見つけるほうがいいだろう。
近年、資産運用の新たな相談先として普及し始めているのがIFA(独立系ファイナンシャル・アドバイザー)だ。IFAは資産運用などの金融サービスを提供する専門家で、アメリカではすでに社会的に広く認知されている。
日本においても徐々にその数が増えてきており、メディアで取り上げられる機会も多くなっている。最大の特徴は、特定の銀行や証券会社からは独立した存在で、中立的な立場でアドバイスできることだ。
自分に合ったIFAを見つけたいなら、直前の経歴を確認しよう。元FP系なら、ライフプランの提案と保険の見直しを得意とする人が多い。一方、証券会社の営業担当出身者は、金融商品や相場のことには詳しいが、ライフプラン系の知識がやや弱い傾向にある。
従来の金融機関だけではなく、資産運用の新しい相談先として、IFAという選択肢も上手に活用していこう。
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