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MIND OVER MONEY
クラウディア・ハモンド
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税金・保険・年金
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人とお金の関係はいつから始まるのか?

幼児は初めて見るお金を、それ自体に価値があるものだと思う。

ぴかぴか光る硬貨を摘まんでみたり、手の切れそうな新札に触ってみたりして、嬉しくなる。じきに、その金属片や紙切れは大切なもので粗末にしてはいけないことを理解し始める。おじいちゃんおばあちゃんがそっと手のひらにコインを握らせてくれた時、お金とは何か特別なもので、魔法めいてさえいると悟る。

人はお金という物体そのものに対して感情を得ており、ただしそれは生まれつき備わっているものではなく、子どもはお金の知識の大半を親から得ている。親や大人のお金に対する価値観を見て学び、お金に対する価値観が形成されていく。

お金への愛着について

最近では決済に現物の通貨をやり取りすることが少なくなってきたが、わたしたちはお金と言えば、今でも大抵モノとして考える。

大抵の人は札束が好きだ。だが札がくたびれて汚れてくると、そっちを早く使おうとする。調査の結果、古い札が財布で過ごす期間は新品のきれいな札に比べて短いことが分かっている。

新しい札であれ、古い札であれ、10ポンドは10ポンドだが、わたしたちは札が違えば別物と見る。

近年になって、お金は物理的な形を取らなくなってきている。カードは確かに便利だが、賢いお金の使い方かと言えば、答えはノーだろう。調査によれば、人はクレジットカードやデビットカードで支払う時、ケーキやチョコレートといった健康的でない食品を衝動買いしやすくなる。やめられない楽しみにふける性癖は「現物」を手渡さなくてもいい時に旺盛になるらしい。

クレジットカードは、現物が無いのでお金を失った痛みを感じにくいのだ。

心の会計と銀行の会計

同じ割引率でも、金額が大きくなると鈍感になってしまう 。なぜ値段がかさむほど金払いが大雑把になるのか。

いくつもの研究結果が示す通り、わたしたちは始終どこまでお買い得かを、支払う金額の何パーセントになるかで考え、実際の差額を自分の購買力と比べてみることをしない。これは相対思考と呼ばれる考え方で、懐に余裕のある人々にとくによく見られる。

つまり人間は買い物の金額が大きくなるほど、それに付随するコストに無頓着になりやすいのだ。

一度掴んだら離さないワケ

人間は誰でも得をしたいと思うが、それ以上に損をしないことに一生懸命になる。少しでも損をすると思うとそっちに気を取られて、もっと得をする可能性を後回しにする。損をしたくない思いは、それと同額の得をしたい思いの倍以上強い。

損失回避という人間の非合理的な傾向は、進化の歴史を、はるか遠く3500万年以前まで遡ると考える。根は深いところにあり、それだけに克服しがたい。

人はまた、自分の所有物の値打ちを実際より高く見積もる傾向がある。自分の所有物には実際より高い価値を授けるわけだ。この現象は授かり効果と呼ばれる。つまり、売りたい品の希望価格を設定する時は、それが自分の持ち物でなかったらと想像してみることが必要だ。

価格に適性はあるか?

頭痛が本当に辛いなら、痛み止めは割高なブランド薬を買う。安いジェネリックと成分は同じと分かっていても、そっちの方が実際に効き目が早いことがある。高いブランド薬を飲めばその分だけ鎮痛効果が大きいと価格に納得させられたわけだ。

最近の小売店は商品陳列の手法が極めて巧妙になった。家電店は最上位機種を買い求める客はあまりいないことを知っている。だがそれを他の機種と並べて置けば、その次に高価な1台が「中間価格」に見えるようになる。この展示方法が利用しているのは「妥協効果」として知られる人間の傾向だ。

妥協には選ぶ者にとって強力な魅力がある。両極端を避けて中間を取るのがいつも妥当と思えるのはこのためだ。妥協効果には損失回避が絡んでいる。高級品は性能が優れているが、値段が高いという大きな欠点がある。安物は安さが強みだが、品質が劣るという大きな欠点がある。中間の価格帯は品質でも価格でも見どころはないけれど、逆に言えば大きな欠点もない。そして先述の通り、こうした条件を考え合わせる時、人は強みより欠点を重視する。わたしたちは得をすることよりも損を避ける方を優先する。

人は価格によって効果や価値を高く見積もることが実験によって証明されており、価格がプラシーボ効果に似た働きをする。実際のそのものの価値よりも自分がいくら払ったか、いくらの価値としているのか、で価値判断をしているのだ。

比較検討を行うよりも、単独のそのものとして自分の価値観がブレないように評価をすることが賢いお金の使い方である。アンカリング効果に騙されず適正な評価を下す努力をしよう。

お金でやる気は引き出せる?

店員にもっと働いてほしいなら、給料を上げなさい。営業にもっと車を売ってほしいなら、歩合を上げなさい。子供にかけ算の九九を覚えてほしいなら、一段覚えるたびに、いつものとは別にお小遣いをあげると約束しなさい。人はこれを賄賂と言い、媚薬と言い、インセンティブとも言う。だが効き目はあるらしい。

出来高制の報酬はある水準を超えるとうまく機能しなくなる。単純作業は別にして大半の仕事では、出来高や質に応じて個人の報酬が増えると約束されている場合、人は報酬の対象にならない努力をしようとしなくなる。

人を動かすのはお金であるという考えが、一般社会にも政府にも根強くあるが、必ずしも正しくはない。インセンティブやボーナスというものも、実は多数の実験によって、必ずしも人のやる気を引き出す大きな要因とはなり得ないことがわかっている。

お金という報酬が一番大きなものだと考えられがちだが、それに付随する、例えば職場であれば上司に褒められる、周囲に認められる、自己肯定感を高められる、といった要因の方が大きいのだ。

賞金とお礼

お金は状況を選んで上手に利用すれば、強力なモチベーションになる。だがどう見てもお金の出る幕でない状況もある。お金は利用する状況を間違えば、深刻な害をもたらすこともある。しなくていいことをする動機にもなるし、するべきことをしない理由にもなるからだ。

とある実験によれば、金銭的インセンティブがあると、モチベーションが下がり、報奨がない場合と比べてプラスの効果は何もなく、褒め言葉の方が効果的だった。

状況により金銭的インセンティブは確かにモチベーションを低下させるが、いつもそうとは限らない。例えば、何かイベントの後に一度限りのサプライズ賞与があってもモチベーションは低下しないが、お金をあげるから課題を始めなさいとかやり遂げなさいと言われると、モチベーションは下がる。

報酬は常に良い働きをもたらすのではなく、マイナス効果として発揮されてしまう場合があり、正常に回るものも回らなくなってしまう可能性があるのだ。

お金はいくらあっても困らない?

倹約の必要に迫られた時、どれがなくてはならないものなのか、考え方は人によってさまざまだ。個人の金銭感覚も人によって全然違う。この十人十色の考え方はどうやって形成されるのだろう?

心理学の世界では「統制の所在」と呼ばれる考え方がある。自分は周囲の世界をコントロールできるという感覚をどこまで持てるかを言い表したものだ。

起業家は自分の状況は自分で変えられると信じる性質、つまり「内部統制型」であることが多く、借金のある人は外部の出来事は自分ではコントロールしがたいと信じる性質、つまり「外部統制型」であることが多い。

人間は新たな状況に、それが良くても悪くてもそこそこでも、慣れてしまう。ただし生活が悪化に傾いた時は、好転した時に比べて適応がゆっくりになる。だが一文なしになったとしても、多くの場合、時間が経てば人は慣れていく。

お金があれば幸福なのにと思う人は多くいる。しかし必ずしもそうではない。一時的にはお金を得たことで幸福度は増すかもしれない。しかし生活をしていく上で慣れとともに幸福度は減っていき、もっとこうならば、と思い始めるのだ。

貧困がもたらすもの

お金持ちは有能だけれど、温かみに欠けると考える人が多い。この場合、優勢な感情は嫉妬となる。貧しい人はどうか。温かみがなく能力もないと見なせば、最終的な感情は嫌悪となる。しかも、この嫌悪という感情はかなり強烈で、相手を一人前の人間と見なさなくなることすらある。

人にはそれぞれ、懐事情に見合った出費とはどういうものかについてはっきりした考えがあり、貧しい人が贅沢品に属する物を買いながら必需品が買えないと聞くと、格別にカチンとくる。

実験によれば、自分でも気づかないうちに金持ちを崇めていて、結果的に金持ちをそうでない人より優遇することがあるらしい。別の言い方をすると、無意識のうちに貧しい人を差別している。これだけでも貧しい人に十分に不利なのに、公正でないこの世界では、いったん貧困に陥ったら抜け出るのは難しい。理由の一つは、貧困に陥ると人は判断を間違いやすくなり、その判断を理由に他人から無責任と見なされやすくなるからだ。

お金がなくなると、お金の心配で頭が一杯になる。まとわりついて離れない。これだけでもうんざりなのに、お金の心配をするほど、貧困から抜け出すために正しく判断できないことが多くなるのだ。

お金のダークサイド

「ほらね、そうやってケチケチするからお金持ちになれたのよ」お金持ちのお金持ちらしからぬ振る舞いを、世間の人はよくこんなふうに説明する。

もっとも億万長者にして守銭奴という評判のよろしくない例がある一方で、お金持ちが極めて気前のいい慈善家である例もある。それでも、お金があると人はケチで利己的になるという説はやはり根強い。

競争心が強い人は、生来利己的であることが多く、金儲けに長けているが、一方で、金持ちになることで一時的に振る舞いが変わり、自己中心的で傲慢な態度になるとも考えられる。要するに、どちらが先とも言えないらしい。

人が所有する富には、この種の「他人の不幸は蜜の味」(シャーデンフロイデ)の感情を呼び起こす力があり、そのお金が相続したものだったり、自分で稼いだお金でなかったりした時、世間の目はますます厳しくなる。

しかし、お金持ちに対して嫉妬することは決して悪いことだけではなく、ポジティブな効果も見込める。自分を奮い立たせるという意味で、嫉妬を利用することは非常に強いパワーになりうるのだ。

お金と善意と幸福と

お金が存在するのはそれが有益だからで、うまくコントロールできれば、お金は人が良いことをする助けになり、もっと広い意味で言うと良い人生を送る助けになる。

お金持ちはそうでない人と比べて気前が良いわけでも締まり屋なわけでもない――ただし最富裕層は別で、巨額の寄付をする慈善家が数名いるおかげでスーパーリッチ層全体が他の層より気前良く見えるのだと考えられる。そして貧しい人が金銭での寄付をする確率は当然に低い。

自分以外の人にお金を使った人の方が幸福度が高かったというデータもある。自分のためにお金を使うか、他人のために使うか、率直に考えれば自分のために使う方が満足度、幸福度は高そうに思えるものの、世の中は自分に使うときに喜びを得る人と他人に使うときに喜びを得る人でわかれている。自分がどちらかなのかを考え、幸福度を高められるお金の使い方をすべきだ。

お金が貯まる心の持ち方

一般的なイメージでは、財産が増える人はリスクを取る人と見なされる。一方、倹約という言葉は一般に出費を惜しむという文脈で使われる。

しかし、繁栄(thrive)と倹約(thrift)という2つの言葉の語源は同じで、これにはわけがある。大抵の場合、繁栄する人がそうなった理由の一つはお金の管理が慎重だからで、果敢な起業家精神とか大胆な投機のためばかりではない。

金融アドバイザーの勧めに従えば、貯蓄は何であれ分散するのがいいそうだ。そこには疑いようのないメリットが一つある。リスクが分散されることだ。誰であれ自分が投資したファンドが暴落したら、無傷ではいられない。だがもし貯金を全部そのファンドに突っ込んでいたら、目も当てられない大火傷になる。

とはいえ、分散が本当に必要なのは富裕層ないし投資家に限られる。大半の人はさほど神経質にならなくてもいい。しっかり貯めるのは無理そうなタイプなら貯蓄口座を一つにして分かりやすくするのは無駄ではないだろう。

人生を直線上に延びるものではなく、循環するものと捉える考え方をお勧めする。考えてみれば、わたしたちはよく逆だと思いたがるが、人間はそうそう変わるものではない。だからもしあなたが貯金が苦手なら、わたしからのアドバイスはこうだ。あなたの来年の行動は今年と同じパターンをたどる可能性が高いことを理解するといい。今できないことが将来できるかどうか、現実的に見極めることだ。

お金を使う喜び

言うまでもないが、お金は貯めるために存在するわけではない。貯金は良いことで、寄付も良いことだ。だがお金を使うのも良いことだ。ただしいつもそうとは限らず、良いか否かは何に使うかで決まる。

モノより経験を買うことをお勧めする。例えば、お金に不自由しない幸運な人なら、そのお金を南極行きクルーズとか、ルワンダでのゴリラ観察ツアーとかに使った方が、流行の服や高級家具を買うよりずっといいだろう。経験は記憶として残り、思い出して楽しめる。

一方、車を買うなど、モノにお金を使う買い物も、それが楽しい経験につながるなら効果がある。これまで行ったことのない場所に行ってみたり、足を延ばして友人を訪ねてみたりといった、車があってこそ楽しめる経験もあるだろう。

お金はありとあらゆる意味で善の力を持っている。心でお金を操ることができれば、自分の生活だけでなく他人の生活まで、お金の力でもっといいものにできる。お金には力がある。だがそれを操るのは人でなければならない。

著者
クラウディア・ハモンド
作家であり、キャスターであり、心理学者。BBC ラジオ4で心理学をテーマに語り、『All in the Mind』『Mind Changers』では司会を務める。これまでに『Emotional rollercoaster』『TIME WARPED』の2冊の著書があり、邦訳もされている『TIME WARPED』(『脳の中の時間旅行』インターシフト刊)は英国心理学会2013 年ブックアワード(ポピュラーサイエンス部門)を受賞した。その他、過去に英国心理学会Public Engagement & Media 賞、Mind's Making a Difference 賞、性格・社会心理学会Media Achievement 賞、英国神経科学協会Public Understanding of Neuroscience 賞を受賞するなど、多数の受賞歴もある。ボストン大学ロンドン留学コースでは非常勤講師も務めている。
出版社:
あさ出版
出版日:
2017/6/22

※Bibroの要約コンテンツは全て出版社の許諾を受けた上で掲載をしております。

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