今後の公的年金はどうなっていくのか。少子高齢化が進む日本では、これからの公的年金について不安を持っている方も多いのではないだろうか。高齢者の比率が高くなるにつれ、働く世代の4~5人で年金受け取り世代の一人を支えていたのが、徐々に2~3人で一人を支える構図になることが想定される。
このことから、今後の公的年金は受給年齢が後退していく可能性が非常に高い。つまり現代は「老後の資金を自分で用意する時代」とも言えるのだ。
そこで注目したいのが「iDeCo」という制度である。これは、国が作った「国民が自分で年金を作るための制度」で、正式名称を「個人型確定拠出型年金」という。CMやネットなどで目にする方も多いだろう。iDeCoには多くのメリットがあり、非常にオトクな制度となっている。
iDeCoの3つの段階
iDeCoは、以下の3つの段階を踏み、老後のための資産を増やしていく。
(1)毎月お金を積み立てる(拠出)
(2)お金を自分で選んだ商品で運用する
(3)原則60歳以降に一時金、あるいは年金にて受け取る
このように、積み立てた掛金を運用し、運用益を増やすことで、自分の年金を作ることができるのである。
iDeCoで最も重要なのは、「何に、どれだけの金額を投資するか」である。最初にそれさえ決めてしまえば、あとはほとんど放置したような状態でも勝手に運用してくれるのが特徴だ。
(1)iDeCoの開始段階
iDeCoは、掛金額や投資先などを自分で決める開始段階が一番重要だ。しっかりと理解しておこう。
<掛金額を自分で決める>
まずは拠出する金額を決めよう。掛金の最低金額は月5000円となっている。上限の範囲は、職種によって以下のように異なる。拠出したお金は途中で引き出せないため、無理のない範囲で掛金を設定しよう。
■職種による掛金の上限
1.自営業者等(国民年金の第一号被保険者)
月額68000円
2.サラリーマン等の第二号被保険者(企業年金なし)
月額23000円
3.サラリーマン等の第二号被保険者(企業年金あり)
企業型確定拠出年金にだけ加入している場合 月額20000円
企業型確定拠出年金とそれ以外の企業年金等に加入している場合 月額12000円
4.公務員等の第二号被保険者
月額12000円
5.専業主婦(夫)の第三号被保険者
月額23000円
<運用する金融商品を決める>
iDeCoでは開始時に金融商品を選択する。ラインナップは積み立てた掛金の元本を確保する元本確保型の商品から、積極的にリターンを狙う商品まで幅広い。必ずしも一つの商品だけで運用する必要はなく、複数の商品を組み合わせることもできる。
(2)iDeCoの運用段階
基本は放置した状態でも資産形成してくれるiDeCoだが、運用期間に押さえておきたいポイントもいくつかあるのでみていこう。
<毎月忘れずに拠出すること>
iDeCoは、毎月26日に口座から引き落とされる。後から再振り込みすることができないため、口座の残高不足には注意しておくことが大切だ。
<年末調整や確定申告をして節税すること>
iDeCo最大のメリットは節税効果である。税金は、「課税所得」が大きければ大きいほど高くなる。なんと、iDeCoでは掛金の金額が所得控除の対象になり、年間で支払った掛金の全額を課税所得から引くことができるのだ。拠出する金額が多いほど節税効果は高くなり、それが何十年も積み重なることで大きなメリットを得られることになる。
さらに、iDeCoでは運用益が課税の対象にならない。これも大きなメリットである。
<基本的にはほったらかし>
長期的に積み立てていくことが前提のiDeCoは頻繁に売買する必要がない。半年から1年に一度ぐらいの見直しはおすすめしたいが、選ぶ投資対象によってはほぼほったらかしで大丈夫なものもある。運用中にやることがほとんどないということも、iDeCoの魅力の一つなのだ。
(3)受け取る段階
iDeCoの受け取り期間は60歳から始まるが、受け取るためには通算加入期間が10年以上必要になる。加入期間が10年以下の場合、受給開始年齢が上がることに注意しておこう。
また、iDeCoの受給申請は自分でする必要がある。受け取り方法は以下のとおりだ。
・5年以上20年以内に分割して年金として受け取る
・一時金として受け取る
・年金と一時金の組み合わせで受け取る
この他にも、障害給付金や死亡一時金などの給付方法も用意されている。障害給付金は、一定の高度障害になった際に受け取れるものだ。死亡一時金は加入者・年金受給中の人が亡くなった際に、遺族が受け取る給付方法である。
iDeCoは受け取り時にも税金のメリットがある。一時金として受け取る場合は「退職所得控除」、年金として受け取る場合は「公的年金等控除」の対象となり節税効果があるのだ。
さらに、運用のシミュレーションをすることも大切だ。iDeCoの運用をシミュレーションしてくれるサイトを使うと良いだろう。掛金や利回りを何度か変更して、分析を繰り返し、自分の拠出金額や運用益を明確にしていこう。
iDeCoは、証券会社などの金融機関で申し込みをする。iDeCoの口座は一つの金融機関でしか作ることができないので、しっかりと選ぼう。
証券会社ごとに、取り扱っている金融商品や手数料が違う。運用コストを抑えるためにも、できるだけ手数料が安い証券会社でiDeCoをはじめることがおすすめだ。
iDeCoでの運用は投資であるため、失敗しないための知識をつけておこう。
投資で勝つコツは、ずばり「複利」と「長期間」である。
預け入れた元本に対して利息が付く単利に比べ、「元本+利息」に利息がついていく複利の方が、結果が大きく伸びていく。そして時間が経つほどに、単利での利益との差が出てくるのだ。
強制的に長期で投資する状況になるiDeCo。運用益を引き出すこともできないため、そのまま複利で長期間運用し続けることになる。つまり、iDeCoは「複利×長期間」の運用に向いている。
iDeCoの商品の種類は大きく分けて「元本確保型」と「元本確保型以外(元本変動型)」の二種類に分けられる。
元本確保型のメリットは、元本が割れる可能性が低いという点だ。ただし注意しておきたいのが、元本「確保」であって元本「保証」ではないということ。途中解約時の利率などによっては元本が割れる可能性もあり、トータルで見ると手数料分がマイナスになることもある。
元本確保型は、安全だが利益も小さく、あまり儲からない商品といえる。また、iDeCoのメリットでもある節税効果をあまり活かせないという面もあるのだ。
iDeCoで積極的に資産を増やしたい人は、増減を繰り返しながら大きな利益を目指す「元本変動型」の商品がおすすめだ。ここからは元本変動型の特徴を見ていこう。
(1)運用は投資信託で行う
iDeCoの元本変動型の商品は投資信託という金融商品だ。投資信託は「ファンド」とも呼ばれ、色々な金融商品を詰め合わせて分散投資をする商品である。
投資運用の格言に「卵は一つのカゴに盛るな」というものがある。これは、カゴを投資対象と考えた場合、大切な卵を一つのカゴに入れてしまうとそのカゴが壊れた時に卵をすべて失ってしまうから、複数のカゴに分散させて保管しましょうという格言だ。
投資信託は、一つの商品を選択してもその中で勝手に分散投資されているから、危険性を減らしながら投資をしていると考えることができるのだ。
(2)投資信託によって中身が違う
投資信託によって、商品の詰め合わせ方が違うことも特徴である。商品によって結果が大きく変わるため、最初に投資信託の中身をしっかりと見ることが重要だ。特によく含まれるのは株式、債券、不動産で、これらの投資対象に間接的に投資していることになる。
通常、株式や債券、不動産といった金融商品を買う場合、まとまった額のお金が必要になるが、投資信託はたくさんの人のお金を集めて運用するので一人一人は少ない金額でも投資できるという初心者でも買いやすい金融商品なのだ。
(3)投資信託を運用するのはプロ
投資信託は、投資のプロであるファンドマネージャーが運用してくれる。ただし、ファンドマネージャーが運用するからといって元本が確保されるわけではない。どの投資信託に投資するかで結果が変わることを覚えておこう。
iDeCoのように、毎月一回一定額を投資することを、ドルコスト平均法という。ドルコスト平均法は古くから多くの投資家に支持され続けてきた投資法である。
投資信託の値段は日々変動しているので、高い時もあれば安い時もある。ドルコスト平均法では高くても安くても毎月同じ値段分を購入し、投資のタイミングを分散させる。こうすることで、一定の数量ずつ買う場合に比べて平均取得価格が安くなるのだ。
このやり方は、iDeCoのような長期投資、月一拠出で効果を存分に発揮する。
投資信託は、運用方法や投資する対象から数パターンに分かれる。選ぶ際には、以下の3つの視点から見比べよう。
(1)手数料が安いものを選ぶ
まずは、保有する投資信託に対してかかる手数料に注目しよう。この手数料、信託報酬は運用中ずっとかかり続ける。信託報酬が安い金融機関の投資信託を購入しよう。
(2)インデックスファンドかアクティブファンドかを選ぶ
インデックスファンドか、アクティブファンドかという視点から投資信託を見比べることも重要だ。
投資の世界での「インデックス」は「指数」という意味になる。「インデックスファンド」とは、TOPIXや日経平均株価のような指数と同じ値動きすることを目指して作られた投資信託のことだ。運用の目標とする指数(ベンチマークと呼ばれる)と同じ値動きをして運用していくことからパッシブ(消極的な)運用とも言われており、信託報酬の手数料は安めになっている。
ベンチマークとなる指数には上記の株価に関する指数だけでなく、債券やREIT、商品に関する指数もある。
一方「アクティブファンド」は、ベンチマーク外の銘柄も追加しながら、積極的に運用する投資信託だ。パッシブ(消極的)運用に対し、アクティブ(積極的)運用と呼ばれる。アクティブファンドでは、ベンチマークを上回る結果を目指す。そのため、運用にかかるコストもインデックスファンドに比べ高めである。
アクティブファンドは、大きな利益を生むこともあるが、必ずしもいい結果を残す保証がないため、初心者の方には、わかりやすくてコストの安いインデックスファンドがおすすめだ。
(3)地域×投資対象で選ぶ
次は、「どの地域の何に投資するのか」という視点で投資信託を見てみよう。
・国内株式タイプ「地域:日本×投資対象:株式」
日本×株式の投資信託のメリットは、分かりやすい点だ。日経平均株価やTOPIXに連動するインデックスファンドに投資すれば、日本市場全体が上昇するときにはその恩恵を受けられる。
・国内債券タイプ「地域:日本×投資対象:債券」
円建ての国内債券に投資する投資信託は、比較的値動きが安定しているため、安心して保有できる。しかし大きな利益は狙えない。
・海外株式タイプ「地域:海外×投資対象:株式」
海外株式タイプの投資信託は、比較的値動きが大きい。大きな値動きがあれば大きく資産を増やせる可能性がある。しかし、海外の株式に投資をする際は、株価の値動きに加えて為替にも注意しなければならない。これを為替リスクといい、簡単に言えば海外株式自体が値上がっても、為替差で損がうまれるといったことがありえる。
・海外債券タイプ「地域:海外×投資対象:債券」
海外債券に限っては必ずしも「債券=安定した値動き」ではないので注意しよう。また、ここにも前述の為替リスクが発生することにも留意したい。
・不動産タイプ:REIT
REITは不動産の投資信託で、商業施設やオフィスビルなどに投資して、その売買益や家賃収入を投資家に分配する。REITは国内不動産に限らず海外不動産に投資するものもあるため、地域は日本と海外の二通り。
・コモデティ
原油や金、小麦等の実物資産に投資することをコモデティ投資という。価格変動が激しいが、インフレに強いため、株式の投資信託と一緒に持つことによってリスクを抑えるという使い方もある。
商品を選ぶ際には、リターンばかりに目を向けず、ハイリターンならハイリスク、ローリスクならローリターンが見込まれることを覚えておこう。また、投資対象が違う投資信託を複数組み合わせて持つことで、損失をカバーし合える分散投資がおすすめだ。
ポートフォリオとは、どんな金融商品をどのような割合で分散するのかを考えるものである。あらかじめ自分にぴったりなポートフォリオを決めておき、それに合わせて投資しよう。
あくまで人それぞれだが、若いうちは多少リスクをとって資産を増やすことを目指し、年齢が上がるにつれてリスクの少ない金融商品に切り替えていくという考え方が基本となる。
海外から国内へ、株式から債券へ、最終的には元本確保型に全額、というように、だんだんリスクを小さくしていくのが理想的だ。
iDeCoでの運用中は、リバランスや配分指定等のメンテナンスも視野に入れよう。
(1)スイッチングでリバランス
半年から一年に一度の頻度で運用状況を確認し、必要であればメンテナンスをする。具体的には、投資信託の値動きによって崩れてきた資産配分を、当初の予定通りに戻す作業をするのだ。最初の資産配分に戻すメンテナンス作業を「リバランス」、投資信託を買い替えることを「スイッチング」という。スイッチング自体は無料だが、投資信託を解約するときには、手数料がかかる点に注意しよう。
(2)配分指定の変更をする
国内株への投資を減らし、海外株の投資を増やすといった配分指定の変更は頻繁にはしない方が良い。ただし、投資の方針が変わった場合や、老後に向けて元本確保型へ移行していくときなどは、配分指定の変更を検討しても問題ない。
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