2024年から開始される新NISAはメリットがたくさん。これから資産形成を始めようという方向けに、投資の王道・原理原則や家計管理、ライフプランまでを分かりやすく解説した本書から、新NISAの仕組みと賢い使い方に焦点をあて紹介します。
資産形成は20年後、30年後の自分や家族のために時間をかけて取り組むものです。投資信託な
どを利用した投資をうまく活用できれば、長期的には利回り3~5%というのは決して難しい話
ではありません。
そして、投資をするなら、NISA(少額投資非課税制度)を優先的に利用することで、税金がか
からず効率的に資産形成していけます。
NISAは2014年1月にスタートした個人投資家のための税制優遇制度です。通常、株式や投資信託などの金融商品に投資した場合、値上がり後に売却して利益を得たり、配当や分配金を受け取ったりすると、利益に対して20%の税金がかかります。しかし、NISA口座(非課税口座)なら、これらの利益に対する税金がかかりません。
例えば、100万円を投資して50%値上がりすると利益は50万円、通常であれば利益の20%、つまり10万円が税金としてかかるので、手元に残るのは40万円になります。しかし、税金のかからないNISA口座なら、手元にまるまる50万円が残りますので、10万円分おトクになるのです。
2024年から始まる新しいNISAは、現行のNISA(つみたてNISA/一般NISA)とくらべて大幅に使い勝手がよくなります。
ポイントは以下の4つ。
現行のNISAでは新規で投資できる期間は、つみたてNISAが2042年まで、一般NISAが2023年まででした。新しいNISAでは恒久化されます。
投資して得られた利益が非課税となる期間も投資から最長20年(つみたてNISA)、最長5年(一般NISA)でしたが、新しいNISAでは無期限になります。つまり、売却する必要がない限り、いつまででも非課税で投資を継続できるのです。
1年間で投資できる金額も大幅アップし、年間360万円(つみたて投資枠120万円+成長投資枠240万円)となります。
最後に、投資できる合計金額が、つみたてNISAの800万円、一般NISAの600万円から、新しいNISAでは1,800万円と大幅に増額されます。しかも、一度売却しても、この範囲内であれば再利用可能になるのです。
利用できるのは日本に住む18歳以上の方です。残念ながら未成年の方は利用できません。口座開設は2024年以降いつでも可能で、新しいNISA口座での投資により得られた利益は、保有期間にかかわらず非課税となります。つまり、20年でも30年でも、どんなに長く保有しても、無期限で非課税となります。このメリットは非常に大きなものです。
新しいNISAでは、現行のつみたてNISA/一般NISAを引き継ぐ形で、つみたて投資枠/成長投資枠という2つの枠が設定されます。これまではつみたてNISAか一般NISAのいずれかを1年ごとに選択する形でしたが、新しいNISAでは両方の枠を同時に利用できます。
つみたて投資枠で投資できる商品は、積立・分散投資に適した一定の投資信託で、現行のつみたてNISA対象商品と同様です。投資方法は積立投資に限定され、年間投資枠は最大120万円ですから、月に1度のペースで積立投資をおこなう場合、最大で毎月10万円まで投資できます。
いっぽう、成長投資枠で投資できる商品は、上場株式や投資信託等となりますので、個別株式やアクティブファンドなども含めた幅広い投資信託、ETF(上場投資信託)、REIT(不動産投資信託)が対象です。買付方法は積立投資にくわえて、好きなタイミングで買いたいだけ投資するスポット投資も可能です。年間投資枠は最大240万円です。
つみたて投資枠、成長投資枠は年間投資枠の範囲内であれば、それぞれ使いたいほうを使いたいだけ利用できますが、利用開始以降、両枠を合計した非課税保有限度額(生涯投資枠)は1,800万円で、そのうち成長投資枠は上限が1,200万円と定められています。つみたて投資枠に上限はありませんので、すべてをつみたて投資枠で使うこともできます。
つみたてNISAは、とくに少額からの長期・積立・分散投資を支援するための非課税制度ですから、そういった観点から対象商品の条件が決められています。たとえば、公募株式投資信託の場合、販売時の手数料がゼロ(ノーロードとよばれます)で、運用中の手数料も一定水準以下といった条件で、対象商品が限定されています。そのため、初心者の方でも選びやすくなっています。
2023年4月27日時点では、つみたてNISA対象商品は全部で227本で、投資対象が株式のみを対象とした「株式型」、株式にくわえて債券やREIT(不動産投資信託)なども対象とした「資産複合型」にわかれています。また、投資対象の地域では、国内、内外、海外の3つに分類されています。実際に投資可能な商品数は金融機関ごとに異なりますので、口座開設の際には事前にチェックしておきましょう。
成長投資枠で購入できる商品は基本的に、①上場株式②投資信託③ETF(上場投資信託)④REIT(不動産投資信託)の4種類となりますが、安定的な資産形成に適していないと考えられる一定の商品は対象外となります。特定の商品が成長投資枠の対象かどうかは、金融機関に問い合わせるのが確実です。
新しいNISAのおすすめの売却タイミングは、結婚、マイホーム購入、自動車の買い替えといったライフイベントなどでお金が必要になったとき、お金を使いたいときです。
では売却時、つみたて投資枠と、成長投資枠ではどちらを優先して売却すべきでしょうか。
投資信託と上場株式など、それぞれで投資している商品が異なる場合は、どちらの商品を引きつづき保有していくべきか、という投資判断になります。同じ商品を購入している場合は、将来的に再利用していくことを考えると、再利用可能になる枠が大きくなるほう、つまり含み益(評価額ー簿価)が小さいほうを優先的に売却していくのがよいでしょう。
新しいNISAは、恒久的な制度で、非課税期間も無期限と基本的にはいいことずくめなのですが、ほぼ唯一といっていいデメリットは損益通算や繰越控除ができないことです。
NISA口座の場合、利益が出たものについては、そもそも非課税ですから税金はかかりません。いっぽう、損失が出たら、”なかったこと“として扱われますので、特定口座なら利用できる損益通算というメリットが得られないことになります。なお、年間通算損益がマイナス(譲渡損失)となった場合でも繰越控除ができませんので、注意が必要です。
新しいNISAで、はじめて投資をするという方もいらっしゃると思います。そういった方に、筆者のおすすめは、毎月1,000円を1本の世界株式インデックスファンドで積み立てることです。毎月1,000円でも、始めてみると、マーケットの動きに合わせて、投資信託の値段(基準価額)が上がったり下がったり、含み益になったり含み損になったり、いろいろな経験を積むことができます。少しずつ経験を積みながら、徐々に金額を上げていけばいいでしょう。
つみたて投資枠の対象商品は、現行のつみたてNISA対象商品と同様で、積立・分散投資に適した一定の投資信託になります。長期的には高めのリターンが期待できる、世界の幅広い株式を対象としたインデックスファンドがおすすめです。先進国や新興国の合計47か国を対象としたものや、日本を除く先進国22か国を対象としたものなど、先進国を含み多数の国に分散できるものがよいでしょう。
新しいNISAの非課税限度額1,800万円はすべてをつみたて投資枠として利用できますので、投資額が年間120万円以内なら、つみたて投資枠のみを使えばよいでしょう。
成長投資枠の利用は、大きく分けて2パターンが考えられます。ひとつ目は、つみたて投資枠の年間上限120万円を上回る金額の投資です。商品はつみたて投資枠と同じでも、ボーナス、相続・贈与、マイホームの売却など、何らかの理由でまとまったお金が入った際にまとめて投資する場合、あるいは、すでに特定口座でまとまった金額を持っていて、それを新しいNISAに移す場合(実際には特定口座の分を売却して、新しいNISAで買い直し)が考えられます。
ふたつ目のパターンは、つみたて投資枠の対象外となる商品に投資したい場合です。上場株式、アクティブファンドなどの投資信託、ETF(上場投資信託)、REIT(不動産投資信託)などは、成長投資枠でしか購入できませんから、成長投資枠を利用することになります。ただし、資産形成が目的なら、つみたて投資枠対象商品のみから選ぶことをおすすめします。資産形成を目的として新しいNISAで投資するなら、世界の株式を対象とした、運用残高の大きい、低コストのインデックスファンドがおすすめです。
2018年から2023年までにつみたてNISAで投資したお金については、投資した年から20年間は今後も非課税扱いで保有を継続できます。たとえば、2023年につみたてNISAで投資したお金は2042年まで非課税で保有できますので、ライフイベントなどで使う必要がないのであれば、基本的にはそのまま保有を継続していくのがよいでしょう。
新しいNISAが開始される2024年以降で、売却する必要がある場合には、非課税期間の短いものから、つまり2018年投資分(2037年まで非課税)、2019年投資分(2038年まで非課税)という順に売却していけばよいでしょう。
なお、つみたてNISAでいくら投資していたとしても、新しいNISAの非課税保有限度額は誰もが一律に1,800万円と別枠になりますので、そういう意味でも必要がなければ売却する必要はありません。
一般NISAの非課税期間は最長5年ですから、2023年以降に、2019年投資分から順次、非課税期間が終了します。一般NISAの場合、以前はロールオーバー(非課税期間終了年の翌年の一般NISA口座に移管できる仕組み)が利用できましたが、今後は利用できませんので、ひとつの対応策としては、非課税期間終了時にいったん売却し、新しいNISA口座で買い直すというものです。そうすることで、今後は無期限非課税で投資を継続することができるようになります。
ただし、一般NISAの非課税期間は最長5年と短いため、非課税期間の終了時にたまたま含み損の状態になってしまう可能性も十分考えられます。そうなると、損益通算や繰越控除ができずデメリットしか残りません。非課税期間の終了を待たずに、途中でほどほどの利益が出ている状態になったら、早めに売却して利益確定しておくことも大切です。
本書でおすすめする「株式への投資」は、「投資信託を利用した株式への投資」です。個別企業の経営状況を分析したり、株価の動向をチェックしながら今が買いどき、今が売りどきなどと判断する必要は一切ありません。世界中の企業から、成長性の高い企業を見つけようと考えると大変ですが、世界中の企業に幅広く、つまりすべてに投資しておけば、このような世界経済全体の成長の恩恵を受けられるのです。どの企業がもっとも利益を出すか事前にはわかりませんが、GDPのうち一定割合は株主に分配されますから、世界中の企業の株主になっておけば、みなさんに一定の利益をもたらしてくれるはずです。
世界株式を対象としたインデックスファンドを利用すると、たった1本の投資信託で世界の47か国、約2、900社の株式に投資できます。リスクを考えると、多数の会社に分散投資することが大切ですが、これだけ分散できれば十分ではないでしょうか。
インデックスは指数ともよばれますが、代表的な株式インデックスのひとつである日経平均株価のように、一定の対象銘柄の株価平均などを計算し、市場全体の動きを見るために使われています。
世界株式を対象としたインデックスで代表的なものにMSCI ACWI(エムエスシーアイオール・カントリー・ワールド・インデックスもしくはアクイ)があります。米国のMSCI社が算出しているインデックスで、世界の47か国(先進国23か国、新興国24か国)の約2,900社を対象として計算されています。このインデックスに連動するように運用されるインデックスファンドに投資しておけば、たった1本の投資信託で、世界の約2,900社の株式に投資できるのです。
このMSCI ACWI算出開始(1987年12月)以降のインデックスに投資した場合の利回りは、2009年2月
(リーマンショック)までなら約4.15%、2020年3月(コロナショック)までなら約6.77%、2023年3月までなら約8.15%となっています。途中、上がったり下がったりを繰り返していますが、長期的には右肩上がりで上昇してきたことが確認できます。
構成銘柄の上位10社(時価総額トップ10)はアップル、マイクロソフト、アマゾンなどの有名企業ばかり。みなさんがMSCI ACWIに連動するインデックスファンドに1万円分投資すると、アップルの株式を437円分、マイクロソフト社の株式を340円…といった具合で投資することになるのです。このように、世界株式インデックスファンドを購入すれば、誰でも手軽に世界の超有名企業の株主になれるのです。世界株式インデックスファンドというとイメージがわきづらくても、具体的な構成銘柄を知ると、グッと身近に感じられるのではないでしょうか。
世界株式インデックスファンドと米国株式インデックスファンドではどちらがいいか?という議論もあります。確認してみると、世界全体のうち約6割が米国です。つまり、米国のみに投資するか、その他46か国の残り約4割もいっしょに投資するか、という違いになるのです。筆者はリスク分散の観点から、米国への集中投資よりも世界全体に投資するほうが、資産形成では適切だと考えています。
ライフプランを考えながら資産形成していく際には、長期・分散・低コストという3つのポイントが大切です。
まず、長期間継続していくことです。株式投資のリターンの源泉は、投資先の企業が利益を生み出すことです。利益はそんなに簡単に出せるものではありません。一年一年のビジネスに取り組んだ結果が、利益として積み上がっていきます。当然、投資で利益を得るのも時間がかかります。短期的な売買で儲けるものではありません。
ふたつ目は分散投資です。株式の個別銘柄を厳選するのではなく、リスク管理上、できるだけ幅広く世界の株式に投資することが重要です。よい銘柄を探しだそうとするのではなく、できるだけ多くの企業に分散して投資するのです。
最後が低コストです。投資する際のコストは、おもに税金と手数料です。税金は新しいNISA口座で投資すればゼロにできます。いっぽう、投資信託を利用すると手数料が発生しますが、商品によって手数料は異なります。インデックスファンドの場合は、できるだけ手数料の低いものを選ぶことが大切です。
投資信託に投資すると、おもに3つの手数料が発生します。購入時手数料、運用管理費用(信託報酬)、信託財産留保額です。中でも重要視しておきたいのが、運用中継続的に負担する運用管理費用(信託報酬)です。運用残高(純資産総額)に対して年率0.113%程度で、運用会社、販売会社、信託銀行のそれぞれに支払います。インデックスファンドで同一のインデックスをベンチマークとするファンドの場合、この運用管理費用がリターンを決めるといっても過言ではありません。継続的なコストである運用管理費用(信託報酬)は必ずチェックしましょう。
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