酒田五法は相場に対する”無防備”を戒める歴史的な教材です。株式市場において超低金利を背景にしてバブルが崩壊した平成元年以降の市況の冷え込みは極めて厳しいものでした。個人投資家には絶望と不信、市場からの離散も広がりました。
政府当局の対策が後手に回った責任は免れないでしょう。しかし、個人投資家レベルに立てば株式市況のもつ独自の修正や相場の本質に無関心であったことが傷を深くしました。
相場の世界は専門家でも大きく読みを外すものです。だからこそ個人投資家は「相場は相場に聞け」という格言に忠実になって市況に耳をすます姿勢が重要です。なぜなら株価は世界各国の支配者層に近い何百万、何千万の投資家の景気予測に基づいた売り買いによって決められるものだからです。
相場はこのような不特定多数の投資家の思惑がぶつかって動きます。投資家心理には経験的な法則性があります。その投資家心理の急所を表現したのが酒田五法です。経験的な法則性をのみこんでかかれば相場の興味を深くし、ムードや群集心理だけで無定見に売ったり買ったりすることもなくなります。
酒田五法の神髄は風林火山と同じです。酒田五法の精神とするものは「売る、買う、休む」の三法にあり、出動ー手仕舞いに際しては敏なることを教えています。つまり孫子の「故に其の疾きこと風のごとく、其の徐かなることは林の如く、侵略することは火の如く、動かざることは山の如く……」の心が必要です。
株式投資の一大基本は天井とみればすみやかに利食い、底と見ればすばやく買います。そして、わかりにくい相場では休まなくてはいけません。
ムードにつられて軽挙妄動するは慎むべきことであるが、強気で行くか、弱気で行くかの基本方針は固めても、仕掛けには「機の熟すまで待つに仁(忍耐の心)こそ肝要」とされます。そして秘伝の指示によって気が熟したことを知ったときこそ満を持して出動します。その秘伝の指示こそ「酒田五法」です。
酒田五法を理解する上で酒田ケイ線を知っておくことが必要です。酒田ケイ線では日足の形の中にオーバーにいえば人間社会の森羅万象が映し出されるとみます。とくに相場する者の心理、需給関係、売り買いの勢力関係がすべて一本の線の中に集約されます。
それを明鏡止水の心境をもって正視し、透視するのが酒田の秘法です。
寄り切り線とは陽線なら寄り付きが安値で、下ヒゲを伴わない線です。この場合”陽の寄り付き坊主”といって上値暗示のかなり強い線とされます。安値で出れば「買い転換の決定線」となります。
逆に陰線なら寄り付きが高値として、そのまま下値波乱になって引ける線です。“陰の寄り付き坊主”といって、下値暗示の弱い線とされます。高値で出れば「売りの決定線」となります。
陽線でも陰線でも比較的長線です。「寄り切り線は酒田の生命也」と断言しているほど重要な線です。
“三猿”とは、見ざる、言わざる、聞かざるの意味です。相場の世界でも一旦仕掛けたならば見ざる、言わざる、聞かざるでなければ、相場に振り回されます。
相場ではデマで人をだまし、手前は逃げているなど悪質な手合いもいるため、他人の説に迷ったりしてはいけません。相場には早耳の必要はなく、相場の方向を確かめてから秘法の示すところによって態度を決定しましょう。
ときには万人の説に逆らっても、断固としてゴーイング・マイ・ウェイの気概が必要です。
酒田五法は「三山」「三川」「三空」「三兵」「三法」の5つです。
それぞれ見ていきましょう。
「三山」は大天井を形成する骨子の線で、売り転換要項です。買い人気旺盛でありながら上げこじれて同じ位置に上下を繰り返します。
2度、3度と新高値の挑戦に失敗すれば大天井と見なします。三山でも2つ目の山が突起した形は「三尊」と呼ばれ、もっと強力な天井構成です。3つ目の山でカブセまたは寄せ線がでれば売り出動です。
三山を構成するのには1カ月要するとされます。大天井ともなれば、1年に1回以上はありません。そして、形成されれば少なくとも6ヶ月ほどは下落を続けるとされます。
「三川」は三山の反対で、買い転換要項です。底に三度突っ込んで大底入れとなります。
・真ん中が下に突起すれば逆三尊でより強力な大底の形成パターンです。陽線で上分岐することが買いの出動条件です。また連続線なら前日の値幅を出たところから買います。
少なくとも数カ月の下落から起こる現象で三山と同様に1年に1回しか出ないのが原則です。形成されれば6ヶ月は上伸可能とされます。
「三空」はいわゆるマドあけが三つ連続する形です。陽線四本がそれぞれ3つのマドを開けて急伸するときが売り転換要項です。人気が熱くなり、成り行き買いとセッパつまった売り方が殺到する相場とされます。
2つ目のマドあけからは買い方もあまり調子に乗らず、冷静な利食いが肝心です。弱気筋は売り出動のチャンスです。しかし、酒田戦術では次にカブセ、または寄せが出るのを待って行動を開始しましょう。
下げ相場はこの逆です。陰線四音が飛んで下放れなら買い転換要項となります。買い方の総投げによって生じ、売り方は利入れのシオ時です。
「三兵」は上昇開始の象徴とされます。ある程度の底もみを経た市況から単線ながら陽線三本連続した線形です。これを赤三兵といいます。
反対向きの線形は「三羽烏」といわれます。三羽烏は1ヶ月以上も相場が上伸したところを陰線三本がツタイで連続する線形です。こちらは崩壊の前兆で一カ月以上は下落するとされます。
酒田三法とは「投機には売り、買い、休むの三法あり」ということです。俗にいう「休むも相場」です。これを実践上では”上げ三法”、”下げ三法”として行動倫理にも用います。
上げ三法は買い乗せ要項で、下げ三法は売り乗せ要項です。上げ三法では高値圏の陽線のあと三本はらみ、次に前回線より高い水準で寄り付いた陽線が出れば買いです。三本のはらみ線は休みの意で、相場は刷新されます。
その逆が下げ三法です。安値圏の陰線のあと三本はらみ、次に前回線より安い水準で寄り付いた陰線が出れば売りです。
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日本でできたローソク足についての本格的な分析に特化した書籍。酒田五法は相場の神様と言われる本間宗久翁が残した「酒田戦法」を元にして作られています。本間宗久翁は江戸時代の米相場で、百戦連勝、常勝不敗の記録を打ち立てるとたちまち巨万の富を手に入れた天才相場師。殿様よりも儲かっていたといわれます。利益を出すための本質とは何か?本間様の極意が書かれている良書。酒田のローソク足による予測は非常に当たる。上級者におすすめの一冊です。- 渡部 清二 -