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投資家が「お金」よりも大切にしていること
藤野 英人
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ひふみ投信のファンドマネージャーで、伝説の投資家でもあり、レオス・キャピタルワークスの代表でもある藤野英人さんの名著。投資とは、単に自分が儲けることではない。投資の本質とは、お金を使って社会を良くすることだ、ということが平易にわかりやすい事例を用いて書かれています。金融に普段触れる機会の少ない、事業会社のビジネスパーソンやエンジニア、大学生、中高生にもおすすめです。- 市川 祐子 -

お金について考えるということ

ふだん、お金を稼いだり、貯めたり、使ったりする中で、「そもそもお金とは何か?」を真剣に考える人は少ないのではないでしょうか。

本屋ではお金を稼ぐ・貯める・増やすことを語る本はあるものの、「お金をどう使うか」について語る本はあまり目にしません。

お金は概念であり、「誰かと何かを交換するための手段」であるはずなのに、「自分がお金を所有すること自体が目的」になっているかのような印象を受けます。

150円のペットボトルのジュースを買うと、「150円」というお金は支払ったお店だけではなく、製造・販売するメーカー、ペットボトル製造業者、商品を流通させる人々などに直接的・間接的に分配されます。ペットボトルの背後には何百人、何万人もの人たちが見え、私たちと“つながる”社会が広がっているのです。

私たちの使うお金は、単なる交換以上の「大きな意味」を持っており、お金を使って何をするか、お金を通して何を考えるか、ということはとても重要です。

日本人のお金の捉え方

私たち日本人はお金に対してあまり良いイメージを持っていません。自分の年収や貯蓄額を公言する人は少ないし、「お金について話すこと自体、憚られる」という人も多いでしょう。さらに「投資」や「お金儲け」ともなると、心の底では「汚い・不潔」「怖い」「悪い」といったネガティブな印象を持っている人がほとんど。

しかし、これは実はお金が大好きであることの裏返しでもあるのです。日本と諸外国における個人金融資産を比べると、日本は「現金・預金」の比率が55.5%と突出して高く、他の国は有価証券や株式といった「投資」の比率が高いのです。

そして、日本人はお金に対してケチでもあります。成人1人あたりの年間寄附金額をみると、アメリカでは約13万円であるのに対し日本ではたったの2500円。アメリカのじつに52分の1です。

ほとんどの先進国では家計の2〜3%を寄附に充てます。「ニューヨーク・タイムズ」によると、アメリカでは年収2万5000ドル以下の人は年収の4.2%を寄附しているそうです。アメリカではお金にゆとりがない人でも寄附を行う文化がある中、日本は家計のたった0.08%しか寄附しない。先進国のなかでもっとも寄附をしない国なのです。

「清貧の思想」

「自分を守ること」がお金の使い道の最優先となり、お金の本質に目を向けない人が多くなったのは、「清貧の思想」が間違った解釈で定着してしまったことも、ひとつの原因と思われます。清貧とは「行いが清らかで私欲がなく、そのために貧しく暮らしていること」で、もともと日本人の多くが美徳とする考え方。

「清貧の思想」とは本来、「理念に生きるためにあえて豊かな生活を拒否する」という思想ですが、いつからか「豊かになるためには理念を捨てて汚れなければならない」という考え方に変わってしまいました。

そして、「豊かになる=お金持ちになるとは何か悪いことをしたに違いない」とねじれて解釈され定着したのです。

私たちはこの間違って解釈された「清貧の思想」ではなく、清らかで豊かになることを目指す「清豊の思想」を考えていかなければなりません。

「清豊の思想」は、経済的な「豊かさ」と内面的な「清らかさ」で成り立ちます。経済的に「豊か」「貧しい」、内面的に「清らか」「汚い」の組み合わせは以下の4通り。

(1)清豊(せいほう):内面的に「清らか」で経済的に「豊か」

(2)清貧(せいひん):内面的に「清らか」で経済的に「貧しい」

(3)汚豊(おほう):内面的に「汚く」、経済的に「豊か」

(4)汚貧(おひん):内面的に「汚く」、経済的に「貧しい」

日本人は「清貧」と「汚豊」しか見えていないかもしれません。成功している経営者は「汚豊」に見え、「清貧」を好む傾向が散見されるのです。

「清豊」でなければ成功はできません。「汚」の世界に足を踏み入れた経営者は半年や1年は持っても、5年以上の長期間信用されることはなかったのです。

アメリカの「お金持ち」の考え方

世界的な大企業が次々に生まれるアメリカでは、「汚豊」的な考え方はあまりありません。起業家として成功した人たちはスーパーヒーローのような熱い眼差しを向けられ、社会のため、世の中のために「貢献している」と認識される文化が根付いています。

新たなビジネスを創出していることに対しては「金儲けをしている」ではなく「新たな価値を世の中に提供している」と理解され、新たな雇用を生み出し、社会を活性化し豊かにする「社会貢献」だと考えられているのです。さらに、ビジネスで余ったお金や資金は、投資や寄附を通じて世の中へ還元するのがあたりまえになっています。ビジネスの成功者やお金持ちはパブリックなことをする存在なのです。

一方で日本にはそういう視点も文化もありません。ビジネスの成功が社会貢献につながるという意識が弱く、パブリックなことはぜんぶ国に任せておけばいいと思っている。

社会的な善とお金持ちになることが両立していないのが日本の社会なのです。

 

消費や投資

消費の価値

私たちは経済活動を通じて日々の生活を送り、そこには必然的にお金がからみます。「お金の捉え方」を見直すため、経済についてもあらためて考えてみましょう。

政治経済の教科書などでは、「経済とはお金が企業・政府(国)・家計という三者間をグルグルと循環している」などと説明されます。

三者間から外れる「労働を行い、対価をもらっていない専業主婦や学生」は経済に参加していないことになりますが、実際は専業主婦や学生向けに存在するマーケットがあり、そのおかげで生産活動のできる労働者がいるため、彼らも経済主体のひとりと考えられます。

消費活動を行っていない人はこの世にひとりもおらず、我々は存在するだけで経済が動くのです。私たちが働くことにも大きな価値があり、消費することにも同じくらい価値があるのです。 

そういう意味で、「人は、ただ生きているだけで価値がある」と言えるでしょう。

消費は社会を創造する

経済は生産者・供給者がつくる側面もあるが、需要家である消費者が決めている部分も大きく、世の中はみんなが使ったお金で成り立っていると言っても過言ではありません。

日本の地方や郊外の中には「ファスト風土」と呼ばれ、どこに行っても同じような風景が広がるところがありますが、これは「みんながそういうお金の使い方をしたから、そうなった」と言えます。独自のバール(珈琲ショップ)文化が根付く珈琲大国イタリアでは、スターバックスがほとんど見当たりません。

消費をすることは大げさではなく、社会を「創造すること」でもあるのです。

投資とは? 

株式投資やFX(外国為替証拠金取引)などをしている人だけが投資家ではありません。「投資とは、いまこの瞬間にエネルギーを投入して、未来からのお返しをいただくこと」。

たとえば、あなたの大事な資源「時間」を、「この本を読む」行為に使い、そのお返しとして「知識」「拡大した視野」を得ることは投資なのです。お返し=お金とはかぎりません。

エネルギーは以下の要素で構成されます。

・エネルギー=情熱×行動×時間×回数×知恵×体力×お金×運

いくら本を買って読んでもただぼうっと文字を追い、投入するエネルギーが「時間」だけでは、未来からのお返しもわずかです。

一方、自分が興味のあるジャンルの本を読むときは、熱中して読むため、「情熱」も「知恵」も「体力」なども投じ、大きなエネルギーを使うため、得られるお返しも強大になるでしょう。

そして、投資することによって得られる未来からのお返しには、お金だけではなく、感謝や成長、経験も含まれます。

・未来からのお返し=プロダクト(モノやサービス)×感謝×成長×経験×お金

「投資とは、利益を得るためにお金を投入することだ」などと言う人はすべてのことをお金で換算している証拠ではないでしょうか。

投資の目的

投資の目的は「世の中を良くして、明るい未来をつくること」。

最大のお返しは“明るい未来”であり、未来が明るくなれば、自分自身もより良い人生を送れるようになります。

会社やビジネスに投資(株式投資・不動産投資など)することは「直接的に、世の中を良くすること」であるし、自己投資も「間接的に、自分を通して世の中を良くすること」。当然、消費をすることも投資であれば選挙で一票を入れることも投資なのです。

投資とは「明るい未来をどうつくるか」という話であり、「世の中と向き合う」きわめて社会的な行為なのです。

「お金について考えること」の真意

あらためて振り返ると、お金とは投資を行うための“エネルギー”で、“未来からのお返し”の一種に過ぎません。お金に支配された人生を生きないためにはこの視点がとても重要なのです。

仕事をすることでエネルギ-を生み出し、消費をすることでエネルギーを使う。エネルギーをどう世の中に流して、みんなと一緒にどんな未来をつくっていくかを考えることこそが「お金について考えること」であり、お金の哲学であると言えるでしょう。

貯金として眠るお金、タンス預金に、はたして世の中を変えるエネルギーがあるでしょうか。それはエネルギーが消滅した「死んだお金」と考えられるかもしれません。

そうした死んだお金の収集に熱心になっているのが日本人であり、ふだん使うお金に関しても何も考えずに「ただ安いもの」を求めて漠然と消費すれば、そのお金は「死んだお金」に限りなく近くなります。

お金に支配された人生とは自分のことだけを考えている「閉じた人生」に他ならないでしょう。

自分がいまこの瞬間もすでに投資を行っているということに、自覚的になりましょう。あなたも自分の人生をかけて社会に投資をしている、ひとりの投資家なのです。

著者
藤野 英人
投資家、レオス・キャピタルワークス株式会社代表取締役会長兼社長 最高投資責任者。一般社団法人投資信託協会理事。株式会社polarewon取締役チーフニコニコオフィサー。投資教育にも注力しており、東京理科大学上席特任教授、叡啓大学客員教授、淑徳大学地域創生学部客員教授も務める。
出版社:
星海社
出版日:
2013/02/26

※Bibroの要約コンテンツは全て出版社の許諾を受けた上で掲載をしております。

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