GDPとは国内総生産のことで、その国の経済状況が今どうなっているのかを見る指標です。
「生産」「分配」「支出」という経済活動のプロセス全体を一度に評価できる便利な「ものさし」となります。
日本のGDPは米中に次ぎ世界第3位です。しかし、GDPの順位自体は実はあまり意味はありません。
この指標をみる時は、数字の規模そのものより前年比の成長率を見て行きます。つまり経済とは、成長してこそ価値があるのです。
日本は過去30年を振り返ると、実はほとんど成長していないというのが事実です。
なぜ国は経済成長を目指すべきなのでしょうか? その答えは経済理論の一つ「オークンの法則」を理解すれば分かります。
オークンの法則とは「実質GDPの前年比成長率が上がると、完全失業率も改善する」という法則のことです。
つまり経済成長を続ける国こそが、仕事に就けず生活に困る人の数を抑えることができると統計的な傾向として分かっています。
「経済成長は一部の富裕層をさらに豊かにするだけ」と主張してくる人がいます。しかし、どれほど優秀な人でも大規模な経済活動を一人ではできません。素晴らしいアイディアを製品やサービスとして現実のものとするには、多くの労働者が関わるはずです。
決して特定の少数の人々が対価を独占するわけではありません。
GDPを上げるには、どうすればいいのでしょうか。実は、私たちの消費行動こそが経済活動の動向を左右しているのです。
GDPは、国内でモノやサービスが生産提供された結果生じた個々の利益すべてを合計したものです。GDPを分析すると経済は企業ではなく、一般消費者が回していることがわかります。
支出面から見たGDPの内訳は消費が53%、企業投資が20%。政府需要が27%です。家計の消費は企業や政府を上回り経済を大きく支えています。
日本は今「物価高」「インフレ」?
物価が上昇すると、新聞やテレビなどで「良いインフレ」「悪いインフレ」という表現を目にすることがあります。しかし経済学の専門家である私から言わせれば、これほど馬鹿げた表現はありません。
なぜなら、ファクトとデータに基づく経済学に「良い」や「悪い」という恣意的な文学表現が入り込むすきまなど1ミリもないからです。
確かにインフレもデフレもある一定期間は日常生活にマイナスの影響を与えることはあります。インフレは物価上昇が際立つと「明日買うより、今日買う方が得」という状態になり、買い急ぎが生まれ、物価はさらに上昇します。
実は遅れて給料は上昇するのですが、急には上がらないため「インフレは悪い」と共感されてしまうのでしょう。
物価高と聞くと嫌なイメージがありますが、物価が適度に上がることは決して悪いことではありません。むしろ歓迎すべきことと言えます。
物価は「経済の体温」にたとえられます。物価上昇は経済活動がより活発になったことの証だからです。
経済活動が活発化するということは、仕事が増えているということ。すなわち、失業者が減ることを意味します。
一部の論客の間では「インフレによって物価が上昇すると低所得層の生活が圧迫される」と主張されています。
しかし雇用が改善するわけですから、生活に困窮している人たちにとっては適度なインフレはむしろ望ましい状態なのです。
日本にもインフレの波が到来したと言われていますが、物価指数の正しい見方を抑えておきましょう。
一般物価とは、代表的な約600品目をピックアップし、その価格に応じた加重平均によって指数化したものです。この指数が基準年と比べ上がったか下がったかを見るのが、消費者物価指数(CPI)です。
そして物価の変動を把握しやすくする為、生鮮食品とエネルギーを除いた物価指数を「コアコアCPI」と呼びます。
2022年のCPIだけに着目すると物価が、大きく上昇しています。しかし、コアコアCPIに着目するとインフレ目標の下限である1%にも達していません。
つまり、日本はまだインフレなど起きていないのです。
米国も欧州もコロナ禍の経済停滞から脱却し、インフレ過熱が進む中、政策金利の引き上げを推進しています。
アメリカの消費者物価指数(CPI)は2020年半ばに新型コロナウイルスの影響で1%を下回る水準にまで落ち込んだものの、それ以降上昇の勢いが強まり2022年3月には8%を超える高水準が続いています。
過熱する物価上昇を抑えるべく、アメリカの中央銀行に当たるFRBは金利の引き上げを実施しました。2022年7月以降は低下傾向にあります。
一方各国が金利引き上げを進める中、日本だけは金融緩和を続け、円安ドル高が進みました。
これに対し、「日本も金利を上げなければならない」と言う人もいますが、本当でしょうか?
日本の物価は、生鮮食品とエネルギーを除いたコアコアCPIがそれほど上昇していないことから、依然インフレと呼べるには程遠い状態です。こうしたデータを踏まえると、日本がまだ利上げをする状況ではないことは明らかです。
日本は、金融緩和を継続し需要喚起を続けるのが正しい選択です。 しかし、2022年12月に日銀は実質的な利上げとなる施策を実施しました。
2022年12月の発表は、日銀がコントロールしてきた長期金利の変動幅を拡大するというものです。
これは長短金利操作= イールドカーブコントロール(YCC)をより円滑に行うためだと説明されています。YCCとは長期金利の目標を決めて、それを達成するために国債の売り買いを行うことです。
それならば「国債買い入れ額の大幅増額」などで十分だったはず。長期金利の変動幅の拡大を加えてきたのは、日銀の金利に対する姿勢に変化があったからといえます。
2023年の日銀の姿勢は利上げ方向になることがハッキリしたといえるでしょう。
「円安」は日本にとってプラスって本当?
2022年は円安が急激に進行しました。
それに対して「家計の負担は増大する一方で企業にとっても大打撃だ」と主張する人を多く見かけます。メディアの報道を見てみると円安が悪者であるかのような話ばかりです。
円安の悪影響はもちろん一理ありますが、100%うのみにしてはいけません。
円安は確かに輸入主体の企業はマイナスの影響を受けます。しかし、輸出主体の企業にとっては、これまでよりも安い原価で海外に製品を売ることができるようになります。
つまり円安は輸出主体の企業にとっては競争力を上げるプラス材料になるわけです。
円安は日本経済全体にとってどうかというマクロな視点から見れば、「追い風になる」というのが私の考えです。
日本企業全体の経常利益の推移をみると、円安が進行し始めた時期に数値は過去最高となりました。なぜメディアでは企業の悲鳴ばかりが報道されているのに、日本企業全体の収益は好調なのでしょう?
それは輸出主体の企業にこそ日本経済を牽引する超優良企業が多数含まれているからです。
こう話すと「恩恵を受けているのは一部の資本家だけだ」と批判する人がいます。しかし、一般的に自国通貨安は、その国の実質GDPを押し上げる要因になることが明らかになっています。
オークンの法則に従えば実質GDPの増加は、失業率の抑制をもたらすわけですから、円安は労働者にとってもプラスの現象だと言えます。
私は、ドル円レートを左右する根本的な要因は、それぞれのマネタリーベース間の比率だと考えています。
マネタリーベースとは通貨の量のことです。アメリカの通貨量に対して、日本の通貨量が少なくなると円高になり、反対だと円安になるという関係が成立します。
この関係を支えるメカニズムは実はシンプルです。それはズバリ「モノは少なければ少ないほど希少価値が出る」というごく自然な法則です。
「日本株」はなぜ「米国株」のように上がらない?
2012年12月に第二次安倍内閣が発足して以来、日経平均株価はおおむね上昇傾向を維持し続けています。
そのような中「株価は上がったが、得をしているのは一部の富裕層だけだ」という批判があります。確かに株価が上がると直接的に利益を得るのは投資家です。
しかし、株価の上昇はさまざまな形で、経済全体に好影響をもたらします。
そもそも株式は企業が事業を行う資金を調達するために発行するものです。そのため株価が上昇すれば、それだけ企業の資金調達が容易になります。
そして希望どおりの資金を調達できれば、スムーズに事業を進めることもでき、業績もアップ。従業員の賃金も上がり、投資家でなくとも恩恵を受けることになるのです。
日本の株価はどのようなメカニズムで変動するのでしょうか?
日経平均とニューヨークダウの推移を十数年の大きな流れで確認してみると、日本株がおおむね米国株の値動きに連動する形で、上下していることがわかります。
しかし、その一方で日米間で若干値動きにズレが出ている期間が存在します。実は、このズレに関係してくるのが為替レートです。
大まかに言えば、為替の変動によってズレは発生し、円高は株安、円安は株高方向に作用します。
ところが2020年は歴史的な円安の年になったにもかかわらず株安となり、セオリーとは剥離した状況となりました。日本株と米国株にかつてほどの相関関係はなくなってきており、独自の動きをみせることもあります。
今後の為替と株価の動向には、これまで以上に注意が必要かもしれません。
株価は日本経済の動向を判断する材料の一つです。しかしだからといって、日々の株価の変動から経済政策を評価しようとするのは、端的に言って誤りです。
株価の値動きは、経済指標としては扱いに注意しなければならない側面を持っているからです。
金融緩和は株価の上昇をもたらすという対応関係自体は存在しています。しかし、そもそも金融政策の最終的な目標は、企業業績の改善、賃金の上昇、雇用の増加といった形で経済成長を促進することにあります。
株価の上昇はあくまで、金融政策に対する市場の反応によって起きる副産物にすぎません。 そのため、株価の短期的な値動きだけを見て政策の良し悪しを判断するのは、極めてナンセンスなことだといえるのです。
経済政策には政府による「財政政策」と、日銀による「金融政策」の二つがあります。重要なのが、これらの政策は単独ではなく、セットで行うことで初めて大きな効果が得られるということです。
このことを示す経済理論を「マンデル=フレミングモデル」といいます。 教科書や辞書では、このモデルを「財政政策より、金融政策のほうが効果的とする理論」と簡略化して定義していることがほとんどです。
しかし、そこに含まれるロジックを理解していない人が定義を丸暗記してしまうと、「財政政策は意味がない」という誤った認識を身につけてしまう危険があります。
財政政策には、おもに「財政出動」と「減税」の二種類があります。財政出動とは政府が国債を発行して資金を集め、公共事業などを行い世の中に仕事を作り出すことです。
それにより失業者が減って国民の所得は増えていきます。 所得が増えると「消費」が盛んになり「輸入」も活発化します。
ところが財政出動によって国債が発行されると、民間金融機関の資金が減少するため金利が上がり企業の「投資」に歯止めがかかります。
金利の上昇は円高を引き起こすため「輸出」も減ります。財政政策には、政府需要や消費のプラス部分がありますが、金利の影響で打ち消されてしまうこともあるのです。
そこで登場するのが、もう一つの経済政策である、金融政策です。具体的には、「金融緩和」が挙げられます。
金融緩和の一つに、日銀が新たにお金を刷り国債を買い上げる政策があります。すると民間金融機関の資金は潤沢になり、民間企業に積極的に資金を貸し出そうとします。
結果金利は下がり、「投資」と「輸出」が増えるため財政出動による金利上昇のマイナス面をカバーすることができるのです。
財政破綻論者たちは、日本の国債発行額が1,000兆円にも上っていることを問題視し「このままいけば日本の財政は破綻する」と主張します。しかし、現実には日本が財政破綻する兆しは一向にありません。
こうしたデタラメが横行する背景には、「国債=借金=悪」という思い込みがあります。国債という政府の借金を個人の借金と同一視し「国債=悪」と決めつけるのは短絡的です。
企業が銀行から融資を受けて経営するのと同様に、政府も国債を発行して国家を運営しています。デフレに苦しむ日本経済を回復させるためには、むしろもっと国債を発行すべきともいえます。
令和4年度における政府予算の歳出の内訳をみると、国債の利払いや償還に充当する「国債費」が22.6%を占めています。
「国債は、借金なのだから、なるべく発行しない方が良いのでは? 」と主張する人もいます。このように国の経済を考える際に、個人レベルの道徳を持ち込んでしまう人は少なくありません。
しかし、国債の発行を減らせば政府の使えるお金は少なくなり、政府需要によっておこなわれる公共事業は減少します。結果として失業率の上昇を招くことになるのです。
国債を発行して雇用を生み出す方がよほど国民にとって有益かつ道徳的です。 何かと悪者にされがちな国債が、実は国の経済を支えているということは覚えておきましょう。
日本の財政状況を把握するために見てもらいたいのがバランスシートです。バランスシートとは組織の資産と負債を一枚のシートにまとめたものです。一枚の表でその組織の財務状況を把握することができます。
ただし、財務省が公表している「日本政府のバランスシート」を参考にしてはいけません。これは日本政府のみのバランスシートで負債が資産を大きく上回っており、あたかも日本が財政難であるかのように感じられます。
国の財政状況を正確に知るには、政府と政府の子会社である日銀のバランスシートを合体させた「統合政府バランスシート」を確認します。これを見れば、政府の国債による負債は、日銀の資産を合算させることで相殺されます。
親会社(日本政府)のみの数字だけを見せられ、虎の子の会社(日銀)を隠し持つ作戦に騙されないようにしましょう。
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