預金と債券は、ともに、定められた利息を定期的に受け取れるし、あらかじめ決められた期日(満期)が来れば元本(一定の金額)が全額払い戻されるという点では、まったく同じ機能を持つように見えます。にもかかわらず、預金と債券は本質的に異なる点があります。それは、預金は“預ける”のに対して、債券は“買う”と表現されることに端的に示されています。
“預ける”ということは、将来これを返してもらうことが前提なのに対し、“買う”ということは、“売る”ことが前提となっています。これは、預金と債券とはまったく性格が異なるものであることを示しています。
すなわち預金のように“預ける→返してもらう”という場合には、当初元本は保証されたうえでいくらかの利子が加えられて返ってくることを意味します。これに対し債券のように“買う→売る”場合には、いくらで売れるかにより、その投資効果は変わります。場合によっては、払い込んだ金額が回収できないこともあるのです。ただいずれにせよ、債券は買うものである以上、売ることができるというのが基本です。
専門的にはこれを“譲渡可能である”と表現します。譲渡可能だからこそ、安心して買えるという面があるのです。
株式は業績を買うもの、債券は満期までの利回りを買うもの、なのです。乱暴に言うと、発行者の信用度、満期までの期間がほぼ同じ債券(銘柄)なら、「どんな銘柄でもOK」。もっとも、細かい条件などはいろいろあるのですが、ざっくりしたところではそう理解しておいて差し支えありません。満期まで5年の国債、東京都債、トヨタ自動車債、東京電力債があれば、それらはほぼ同じ利回りで取引されているのです。
実は、あらゆる金利のなかの代表格が債券の利回りなのです。国が歳入不足を埋めるためにほぼ毎月コンスタントに発行している、期間10年の国債の利回りが、日本の金利の最先端を切って走っている。こんなイメージをお持ちください。実際、ニュース報道、解説などで「日米金利」とか「米国の金利」とあれば、ほとんどの場合は「債券の利回り」を意味しているのです。
債券の利回りは、あらゆる金利のなかで最も先行して動きます。なかでも、日々最も頻繁に売買されている期間10年の国債の利回りが、あらゆる金利の先頭を切って走っています。
また、預貯金金利や貸出金利、政策金利は金融機関や日銀が決めるというのが基本ですが、債券の利回りは、債券市場に参加している不特定多数の人々、法人企業、年金などの機関投資家など幅広い参加者の売り買いのエネルギーいかんによって自然に決まります。つまり時々刻々と変化する需給バランスのもとで、ひとりでに価格ならびに利回り(つまりは取引条件)が決まるのです。ほとんど人為的な圧力はかかりません。
有価証券は発行市場と流通市場に分けて考えるのが一般的です。発行市場とは実際にその債券が発行されるまでの諸々の制度や発行されるに当たっての仕組みなどを指し、流通市場とは実際に債券が発行されてからあと、市場で自由に売買される時点での様々な制度や市場の仕組みに関することです。
債券の発行市場とは、国や企業などが資金を調達するために債券を発行するに際して、発行者から投資家に当の債券が渡るまでの市場のこと。「債券」が新たに「起こされる」という意味合いから起債(きさい)市場と呼ばれることもあります。もっとも市場とは言っても、具体的かつ物理的な市場が存在するわけではありません。
国債の発行コストは流通市場での10年国債の利回り如何で大きく変動します。その意味では、10年国債の流通市場での売買利回りはとても大きな意味を持ちます。また、国外に目を転じてみると、大量の国債を発行し続けている米国のドル建て国債は、その過半数が海外諸国の外貨準備資産や多くの民間投資家などによって保有されています。
このため、海外の投資家による米ドル建て国債への売り買いによって米国の長期金利が変動し、これが米国の長期金利全体の水準を変えることになるのです。このようにして米国の長期金利が変動すれば、ただちに米国の経済状態に影響を与えることになります。
現在証券取引所に上場されている銘柄は、長期国債、超長期国債、転換社債型新株予約権付き社債等です。それ以外の多くの債券は上場されていません。
銀行や証券会社が互いに、あるいは一般の企業や個人顧客との間で直接売買を行なうのが店頭取引です。大部分の債券は非上場であり、もっぱらこの店頭取引が行なわれています。これは、債券の売買が株式とは異なり、取引所での市場売買に馴染まない面を持っているからです。債券が取引されている場(店頭取引)の様子は、多くの人にとってなじみ深い株式とはまったく異なっているのです。
債券が日常的に売り買いされている店頭市場で、その取引を実質的に仕切っているのは、実は国内の大手証券会社、メガバンク、そして米国系の投資銀行、あるいは年金ファンドなどのプロの機関投資家。もちろん、個人や一般の事業会社なども取引に参加していますが、それは少なくとも金額で見る限り、全体のごく一部にすぎません。
もう1つ重要なことは、債券市場での売買は、最近発行されたばかりの10年国債に集中していること。これも、株式市場のイメージから見ると、ちょっとわかりにくい点かもしれません。債券は、日本で発行されたものだけでも5万銘柄以上あるのですが、日常的に売買の対象になっているのはその一部です。
その理由は、債券が株などとはまったく違う性格を持っているから。債券に投資する人にとって重要なことは、それを一定期間保有すればどれくらいの収益が上がるかです。そしてそれは、その債券を発行する会社等の業績には原則として関係ありません。トヨタが史上空前の利益を得たと発表されたからと言って、トヨタが発行した債券の相場が上がるわけではないのです。
債券投資にも一定のリスクがあります。債券利回りならびに価格は、景気、株価、物価などの動向に左右されるという意味では一種のリスクです。これを金利変動リスクと呼びます(価格も動きますから価格変動リスクとも言えます)。
そしてさらに、流動性リスクと信用リスクがあります。
流動性リスクとは、実際にその債券を売買しようとしてもいろいろな理由で円滑に売買できないというリスクです。たとえば、その債券銘柄の発行量自体が少ないために売り買いが少なかったり、その債券が特定の投資家によって買われ(買い占められ)ていて、ほとんど取引されていない場合等がそれに該当します。
流動性以上に重要なリスクが、発行者の信用力です。債券の発行とは、発行者による資金の調達を意味します。そして、その引き受け手・買い手は資金の拠出者です。つまり、債券を媒介にしてお金の貸借が行われているわけです。
リスクの度合いを一般の投資家が客観的に判断することはきわめて困難なため、企業の債務返済能力を測ることを専門とする会社が、債券の発行会社の信頼度を簡単な記号で示すことで、一般の投資家に対する情報提供を行っています。これが格付けです。
格付けは、最上級のAAA格からAA、A格、さらにはBBB、BB、B……というように表示されます。格付けを決めるに際しては、各社ともにいくつかの重要な判断基準を設けていますが、最終的には約束通り利子ならびに償還金を支払う能力があるかどうか、が基本になります。
そこで、BBB格以上の銘柄は投資適格債、BB格以下の銘柄は投機的格付債と呼ばれています。資産の安全性を第一に考える年金ファンドなど大手の機関投資家は、BB格以下の債券には投資しないという方針を掲げている場合が多いのです。
債券は原則として、市場における自由な需給バランスに応じてその取引条件(価格ならびに利回り)が決まります。
金利の変動を見ていくうえでもっとも注目すべきことは、景気との関連です。最近では、2003年以降、長短金利ともにほとんど史上最低水準を続けています。これはこの時期には、わが国の経済成長率がかつて経験したことがないくらい低迷したからです。
景気が悪ければ、日本銀行は景気を刺激するための金融政策を行います。つまり政策金利を下げていくわけです。日本銀行が金利を下げると民間金融機関は、一般の企業に対する貸出し金利も下げることができます。企業向け貸出し金利が下がれば、企業はそれ以前に比べて積極的に銀行借入を利用しようとします。つまり、企業はより多くの資金を使えるようになるのです。
「景気が底を打ったので金利は上がりそう」といいます。あるいは、米国で景気拡大を示す経済データが発表されると、米国国債に代表される金利が上昇するのが原則です。たとえば、失業率の低下、GDPの増大、雇用者の増加、小売売上高の急速な伸びなどは、米国債の利回り上昇を促します。
まず、景気がいい(あるいはさらに景気が上昇する)ということを、『民間企業一般に製品などの売れ行きがいいから設備投資が活発である。さらには運転資金需要が高まってきている』という側面から考えてみましょう。こんなとき、企業はより多くの資金を必要とします。
そこで、銀行から新たに資金を借り入れたり保有している債券を売ろうとするわけです。債券の売りが増えれば価格が下がり、利回りは上がります。銀行借入れが増えれば、銀行は貸出金利を上げます。それでも借り手は多くいるためです。同時に銀行は、貸出増加に応じるため、手持ちの債券を売却してそれを資金化しようとします。これも債券利回りの上昇を招きます。
見過ごすことのできないデータの1つが物価です。物価上昇が続いているケースを想定してみましょう。
銀行借入が増えると、銀行は貸出金利を引き上げようとします。また、現金捻出のための債券の売りが増えるため価格が下がり、利回りは上がります。つまり、金利全般が上がっていきます。
家計や企業は預金への意欲が減退します。むしろ預金を引き出して消費に使おうとするでしょう。このとき銀行は、多少金利を引き上げてでも預金を集めたいと考えるはずです。
物価が上がりすぎ、景気が悪化することを防ぐため、日銀は政策金利を引き上げます。金利が上がれば、人々の借入が減り、使えるお金が減り、消費も減るため、物価上昇にブレーキをかけることができると予想されるからです。
以上のような現象はいずれも、金利の引き上げにつながるというわけです。つまり『物価高=金利高あるいは金利上昇』であり『物価鎮静=金利安あるいは金利低下』という図式が成り立ちます。
株価下落が続いているケースをイメージしてください。
この場合「さらに株価が下がる」と人々は考えるので、株式の売り(株式市場からの資金流出)が増えます。そして、その資金の一部はたいてい債券市場に流入します。つまり債券が買われるのです。債券が買われれば、債券価格は上昇、利回りは下がります。これが1つ目のメカニズムです。
そして、「株安」により企業、個人の保有株式の評価額は下がります。株安は景気の悪化を予見していることが多いため、企業は設備投資や研究開発への意欲がそがれ、個人も消費の抑制を考えます。企業、個人ともに経済活動のエネルギーレベルが下がるのです。
こうして景気後退への懸念が強まってくると、日銀による政策金利の引き下げ(=利下げ)が予想されます。すなわち、金利引き下げによって民間へ低利の資金供給を促すという政策が期待されるのです。すると、それを先取りして債券の利回りも下落するというわけです。これが2つ目のメカニズムです。
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