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通貨で読み解く経済の仕組み
永濱 利廣
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知識・教養
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経済社会
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日本低迷の原因は円安だけではない

そもそも日本経済低迷の原因は日本人の国際的な購買力が下がっていることです。円安の影響だけではありません。そのため、円高になればすべて解決という単純な話ではないのです。

購買力が低下している要因は日本の物価が海外に比べて上がっていないこと。物価が上がらないと給料もあがりません。そしていくら頑張っても豊かになれない状況となります。

また基本的に円安は日本経済の輸出面に追い風でしたが、今は特殊な要因で追い風が吹きにくい状況となっています。このように円安の恩恵を受けにくい経済構造になったことが、日本経済低迷の真の原因ともいえます。

今の日本経済は弱いです。しかし自国の経済が弱いなら、弱いなりに成長する方法があるはずなのです。

円安円高どっちがいいのか

円安と円高とは

そもそも円高円安とはなんなのでしょうか。円高円安とは他国通貨に対して円の価値が高くなったか低くなったかを表す言葉です。例えば、1ドル=100円が1年後に80円になったら「円高」、120円になったら「円安」です。

100円に対してドルがいくらになるのかを考えると以下の通りになります。

■1ドル=80円⇒100円=1.25ドル

■1ドル=100円⇒100円=1ドル

■1ドル=120円⇒100円=0.8ドル

同じ100円でも価値が違うことが分かると思います。

円高円安は米ドルを基準にする

ニュースでは何も但し書きがなく「円高」「円安」と表現しているときは、必ず米ドルと比較しています。なぜなら、米ドルが国際的な通貨の中で中心的な役割をはたしている通貨(基軸通貨)だからです。

米ドルは最も価値が安定しており、アメリカ以外の国々で取引するときにも、決済手段として多く使われています。日本の貿易における決済も米ドルが圧倒的な割合を占めます。日本円をいったん米ドルに両替して取引しますから、そのときの交換比率によって貿易収支が大きく異なります。

円安のほうがGDPが増える 

では日本経済全体から見ると円高と円安どちらがいいのでしょうか。マクロ経済全体で考えれば円安になったほうがいいと考えます。なぜならGDPが増えやすいし、税収も増えやすいからです。

円安になると日本が海外に売るモノが安くなることで輸出の量が増えます。さらに国内の設備投資が増えやすくなります。なぜなら、円安の場合は海外で作るよりも国際競争力が高まるからです。

輸出関連企業を中心に企業も儲かりやすくなりますし、物価上昇で賃上げも進みやすくなります。その結果、収入が増えるのです。そして、企業が儲かりやすくなれば税収は増えていきます。

また円安になると国内のモノやサービスも売れやすくなります。アベノミクス前は異常な円高で輸入品が安く、国内のモノやサービスが売れなくなりました。

円安になることで輸入品が高くなり、国内のモノやサービスが売れ、国内にお金が落ちました。国内に通貨が落ちればGDPにプラスにカウントされます。そのため、自国通貨が安い方が国内に富が落ちやすいから、経済にとってプラスということになるのです。

日本低迷の原因は円安以前の円高放置

とはいえ一生活者として円安がプラスにはたらいていると感じられない人もいるでしょう。物価が上がっているのに給料が上がらなくて生活が苦しくなっている人もいるはずです。

しかし、円安がすべての原因ではありません。日本を貧しくしている本当の原因は長い間円高が放置されてきたことです。それによって日本の経済構造が円安の恩恵を受けにくくなっています。

日本はバブル崩壊、リーマンショック後のデフレを回避し、経済を早期に立て直すべきでしたが、デフレを放置しました。これが、長期の経済停滞に喘ぐ「デフレスパイラル」のもととなり、円高を招きました。

円高の影響で日本で作っても製造業が儲からなくなってしまった。だから成長期待もあり、労働力の安い海外に生産拠点を移したのです。生産拠点が海外に流出することは日本経済全体から見ると大きなデメリットがあります。国内の産業空洞化を招いてしまい円安になっても輸出が増えにくくなります。

結果、円安の弊害ばかりが目立っています。

為替を政策で動かす方法

2国間の金利差 

為替を動かす要因はある程度、政策によってコントロールできます。大きな要因は「2国間の金利差」と「インフレ率格差」です。金融的な側面から見た為替の変動要因が「2国間の金利差」、実体経済の為替への影響が「インフレ率格差」になります。

まずは二国間の金利差からご説明しましょう。短期的な為替の動きは「2国間の金利差」によって左右されます。ここでいう金利とは住宅ローンや定期預金などの金利ではなく、金融市場つまり金融機関同士の取引における金利です。

金融市場の金利は各国の中央銀行が決定する金利を基準として動いています。中央銀行の決める金利を「政策金利」といいます。景気が過熱したときは政策金利を上げ、景気が冷え込んでいるときは下げます。

政策金利は日本だけでなく各国が定めるため、2つの国の政策金利を比べた場合、金利が高くなる通貨があります。この2国間の金利差が為替レートに大きな影響を与えます。

金利が高い通貨の銀行に預けたほうが利子がたくさんつくため、金利の高い通貨の需要が高まります。金利が上がりそうな通貨は買われやすくなり、為替が動きます。例えば日本に比べてアメリカのほうが金利が高い場合、米ドルが買われやすくなるため、円安ドル高になるのです。

インフレ率格差 

インフレ率格差とは「2国間のインフレ率にどれくらいの差があるか」ということです。インフレ率とは一般的な物価上昇の度合いを表す指標で、物価の変動を時系列的に測定する消費者物価指数(CPI)が前年の同じ月と比べてどの程度変化したかで見ます。

2国間のうちインフレ率が高いほうの通貨に下落圧力がかかります。インフレ率はそこまで短期で動かないので、インフレ率格差はどちらかというと長期的な為替の変動要因です。

インフレとはモノに比べてお金の価値が低くなること。ということは、インフレ率が上がるほど通貨の価値は低くなりやすいのです。例えば、日本とアメリカのインフレ率はずっと格差があります。日本は物価が上がらないのに、アメリカばかり物価があがりました。インフレ率格差だけを見ると、日本はずっと円高ドル安の圧力がかかっています。

ただし、2022年の円安ドル高となっている要因は、インフレ率の格差より金利差のほうが強く影響を受けています。

著者
永濱 利廣
1971年、群馬県生まれ。第一生命経済研究所 首席エコノミスト。95年に第一生命保険入社、日本経済研究センターを経て、2016年より現職。衆議院調査局内閣調査室客員調査員、総務省「消費統計研究会」委員、景気循環学会常務理事、跡見学園女子大学非常勤講師。
出版社:
PHP研究所
出版日:
2023/01/17

※Bibroの要約コンテンツは全て出版社の許諾を受けた上で掲載をしております。

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