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経済学の名著50冊が1冊でざっと学べる
蔭山 克秀
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知識・教養
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国富論 アダム・スミス

「経済学の父」といえばこの人、アダム・スミスだ。

「古典派経済学の祖」として知られるスミスだが、当時の彼は経済学者ではなく、哲学者としてしられていた。それはこの時代、まだ「経済学」という学問ジャンルがなかったからだ。

そもそも学問は、その分野の発展とともに栄えてくるものだ。たとえば社会のルールが「村の掟」しかなかった時代には、法学なんて発展するはずがない。経済学も同じだ。実は人類は、誕生してから18世紀までの間、経済をごくわずかしか発展させていない。

世界の国々は驚くほど長い間、特権階級により支配されてきた。世界中いたる所で、王や教会、大名や領主様に、人民は自由を抑圧されてきた。日本でもおなじみの「封建制」だ。

そうした封建主義は何百年も続き、ある日突然「重商主義」の時代がやってきた。重商主義とは「絶対君主が商業と貿易を保護し、そこから利益を吸収」するシステムだ。この後、市民革命が起こり絶対王政を倒した。これでようやく自由を得た人々は、自らのための金儲けが許されたことで工夫と改良に熱が入り、その後の産業革命と経済学の発展につながっていったのだ。スミスが生きたのは、まさにそんな時代だ。ならば専門の経済学者なんて、まだいるわけがない。

さて、このスミスの国富論は天才的なひらめきに満ちた本だった。そこには、様々な経済思想の源流ともいえる考え方が非常に多く盛り込まれていた。しかし、直観に頼っているせいか、スキが多い。矛盾や混同がけっこうあり、そこに整合性を持たせようとして、何箇所か文が変に歪んでいる。「天才的な直観と隙だらけの理論」は、他の学者の「突っ込み欲」を刺激する。後で紹介するリカードをはじめ、みんな嬉々として突っ込みどころを探し、スミスをボコボコに叩いた。でもその突っ込みと修正が理論を洗練させ、経済学を多方面から発展させたのだ。

まず『国富論』は分業のすばらしさを説明するところから始まる。

たとえば、ピンの製造一つで考えてみると、もしたった1人で作るとしたならば、おそらく1日に1本も作れない。まず早起きして山へ登り、鉄鉱石を掘る所から始めなければならない。しかも、それで1個10万円とかで売れるんならば頑張りがいもあるが、できるのはピン1本。10円にもなりゃしない。

でも、気の遠くなるような工程をすべて分業することで、作業は飛躍的に効率がよくなる。分業は労働生産性をすばらしく高めてくれるのだ。

というわけで、工業を軸に、分業を実現することで生産量が増え、社会は発展し、国民の最下層まで豊かさが行き渡る。つまり、「豊かな国」になれるのだ。

ちなみに分業は「他人との助け合い」だが、スミスによると相手の助けを得るコツは、相手の善意に期待するんじゃなく「利己心」に訴えること。つまり「私は困ってます。助けて」ではなく「俺と組んで分業すれば、俺もお前も儲かるぜ」と言われる方が、より確実に相手の助けを得られるのだ。

人口論 トマス・ロバート・マルサス

マルサスは、牧師であり人口学者であり、アダム・スミスの系譜を受け継ぐ古典派経済学者の1人だ。

『人口論』は簡単に言うと、「このまま人口増加が進めば、近い将来必ず食糧不足が起こるよ」という警告の本だ。当時のイギリスは産業革命真っ盛り、どちらかといえば楽観論に支配されていた。ところがマルサスは、そんな好景気に浮かれるイギリス人たちに、冷や水をぶっかける。「おいおいあんたら、いくら工業生産が増えたって、食い物がなきゃ死ぬんだぜ。しかもこれ、遠い未来の話じゃなく、ほんの30年後の話」

人口は、何の抑圧もなければ「等比級数的」に増加する。一方、人間の生活物質の増え方は「等差級数的」である。

「等比級数的」とは「等比数列の規則に従って」という意味だ。等比数列は、左の数字に一定の数字を「かける」と次の項になる数列だから、たとえば、1・2・4・8・16・32……のような「かけ算の形」のことだ。対して「等差級数的」とは「等差数列の規則に従って」の意味。等差数列は、左の数字に一定の数字を「足して」いけば次の項になる数列だから、たとえば、1・3・5・7・9・11……のような「足し算の形」のことだ。

つまりマルサスは「人口はかけ算で増えるのに、食べ物は足し算でしか増えない」と言っているのだ。

すなわち、どんどん人口が増え食糧規模を超えてしまえば破綻する。当時のイギリスでは「救貧法」(全体から集めた金を貧者に分配)があったが、これで下級層を助けることもマルサスは批判する。

仮に下層階級に金を配って、すべてに金が行き渡り、全員が肉を買えるようになるとどうなるか?そこでは肉が品不足になって価格が上がり、買えなくなる。かといって、肉の生産を増やせばどうなるか?今度はその分だけ穀物用の土地が犠牲になり、穀物が買えなくなる。結局イギリスの救貧法は、食糧増加の見通しを立てないまま人口を増やしてしまうため、破綻するのである。

下層階級の困窮をなくすために、特にマルサスが推しているのが「農業」だ。貧民救済より土地の開墾を、工業より農業を、牧畜より農耕を奨励すべきだ。マルサスの考えでは、国が豊かになる自然な順序は「土地の耕作の高度化→製造業の発展→外国貿易」の順だ。

たとえ人口増加と食糧不足が「乗り越えられない障害」であったとしても、真実から目を背けるべきではないと、彼は考える。現実を直視し、やれることをやろうと言っている。

将来の予測により確実に起こる悲劇に目を背けず、具体策を講じるのがあるべき政策である。

経営行動 ハーバード・アレクサンダー・サイモン

経営学の教科書では、売り手と買い手は各々その利潤と効用だけを考え、常に合理的に行動する忠実なプレイヤーだ。しかし、自己の利益の最大化に対して最適な行動を選択し、ミスも妥協も心変わりもせずわき目も振らずにミッションを成し遂げる。そんなエコノミックゴルゴ13みたいな奴はいない。

そういうプレイヤーがそろってこそ、経済学は計算可能な「科学」となる。しかし実際問題、人間の合理性には限界があるのだ。サイモンはこれを「限定合理性」と呼んだ。

企業などの経営組織は、そんな限定合理性しか持ち得ない個々人の集合体だ。そんな欠陥だらけの組織をどうすればうまく経営できるのか?サイモンの『経営行動』は、そんな個々人の限定合理性を克服するための企業の組織的な意思決定を研究している。

セイラー教授の行動経済学 リチャード・H・セイラー

行動経済学とは、経済学に心理学的アプローチを試みることで、人間の非合理的な行動をモデル化していく学問分野で、リチャード・H・セイラーは2017年にノーベル経済学賞を受賞した。

伝統的な経済学は常に「合理的プレーヤー」を想定するが、実際の人間は、非合理的な選択ばかりする。

たとえば、住宅ローンの乗り換え。金利面で得になることがわかっているのに、銀行員の熱心な売り込みや手続きの煩雑さ、プランの選択肢の多さなどに尻込みし、結局借り換えしないまま、何年も放置したりする。

ならばそういう人には、より「簡単」なプランをだけを提示し、しかも、「しつこくくどく(ナッグ)」ではなく「軽く肘で小突く(ナッジ)」のように、ポンと背中を押してやればいい。つまり、「このプランなら、今より確実に金利面でお得です。しかも、月末までに借り換えれば、さらに0.5%お得」みたいな具合だ。

セイラーは経済学に心理学を統合させることで、僕らのお金に関する決断に、大きな判断基準を与えてくれたのである。

リスク・不確実性および利潤 フランク・ハイマン・ナイト

不確実性とは何か?ナイトはこれを2つに分け、これから何が起こるのかを確率的に予測できるもの(たとえばサイコロの次の出目<組み合わせの確率>や乳幼児死亡率<データに基づく確率>など)を「リスク」、それが予測できないものを「真の不確実性」と呼んだ。

ここで完全競争市場について考えてみると、完全競争市場では、売り手や買い手はすべて合理的プレイヤーであり、各々が完全な情報を持って、自己利益の最大化のため、常に合理的に行動する。

そうすると、理論的には国民所得・事業収益・個人の所得と効用は最大化され、生産と消費は均衡し、商品コストは生産要素サービスへの報酬に等しくなって、「商品の価格と原価は一致」する。ということは、その差額である「利潤」は、この流れからは発生しないとナイトは考えるのだ。

ならば、企業の利潤は一体どこから生まれるのか?

企業家精神が「新しいものへの挑戦」だとすると、企業家は常に予測不可能な「真の不確実性」にさらされていることになる。でも、彼らはそれに挑むからこそ、その勇敢さへの対価として「利潤」を得るのである。

人的資本 ゲーリー・スタンリー・ベッカー

工場や機械などの資本の価値は、投資によって高めることができる。ならば人間も「金を稼ぐ能力を持つ機械」と考えれば、投資によって労働市場での価値を高められるのではないか?──そう考えたのがベッカーだ。

人間も資本ならば、教育訓練投資を受ければ受けるほど労働生産性は高まり、賃金も上がるはずだ。現に日本の終身雇用制では、社員研修という「教育訓練」が定期的に施されることで、社員のスキルは着実に上がり、結果として年功序列型賃金も可能になっている。この考え、日本人には当たり前の感覚ではあるが、「転職が前提」のアメリカでは思いつかなかったんだろう。アメリカで社内研修なんかやったら、スキルアップした直後にみんな転職し、企業は「他社の戦力を育成する」というマヌケな貢献をしたことになるからだ。

ベッカーにかかれば、結婚も見返りをあてにした経済活動、子どもの習い事や塾も自らの退職後のための投資……。ちょっと人間を打算や合理性だけで見すぎかも。

正義論 ジョン・ボードリー・ロールズ

格差社会で注目される本といえば、ロールズの『正義論』もそれだ。この人の場合は、「そもそもどんな社会を作るべきか」から語る。

ロールズの思想の軸は「公正としての正義」と呼ばれる正義だ。これは「各人が自由を目指す権利を公平に与えられている公平さ」としての正義であり、各人はその正義の範囲で、社会の最も恵まれない人々を救済するという側面も持つ。これが社会に備わっていれば、平等で公平な社会を構築できる。

そのような社会作りを、ロールズは「社会契約説」的に考える。つまり原初の自然状態で不足する権利を、どんな社会作りで補うかという考え方だ。この自然状態が、ロールズでは「無知のヴェール」になる。

つまり、もし人間が「無知のヴェール」(自他の地位・能力・財産・出身等が全くわからない状態)に覆われていたら、どんな社会を目指したいと思うだろうかと考えるのである。その結果が「公正としての正義」の実現した社会なのだ。

著者
蔭山 克秀
代々木ゼミナール公民科講師として、「現代社会」「政治・経済」「倫理」を指導。最新時事や重要用語を網羅したビジュアルな板書と、「政治」「経済」の複雑なメカニズムに関する本格的かつ易しい説明により、「先生の授業だけは別次元」という至高の評価を受ける。
出版社:
KADOKAWA
出版日:
2018/08/31

※Bibroの要約コンテンツは全て出版社の許諾を受けた上で掲載をしております。

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