金融機関で提供されるサービスの基本。それは「利用者視点に立ったものである」という点、そして利用者が満足できるものであるという点です。しかし、一部のサービスは利用者目線から大きく外れ、極めて大きな問題を引き起こすこともありました。あるべきサービスの姿について考えるために、過去そして現在引き起こしている課題について学んでいきましょう。
地価と株価が高騰したバブルの時代、銀行と保険会社の利害が一致して販売を推奨した商品があります。それが「一時払い変額保険」と呼ばれるもので、保険料を保険会社が運用を行い、受け取る保険金額が運用次第で変動します。一般的な保険は被保険者が亡くなった場合、定額の保険料が支払われますが、その特殊性から1980年代後半から90年代初めにかけてトラブルとなりました。
トラブルになった理由は大まかに2つあります。1つは運用に回される保険料は、そのまま全てが運用されるわけではない点。銀行の販売手数料や運用関係手数料が差し引かれる形で運用されます。2つめは、運用結果が悪かった場合、保険料を下回る保険金しか手に入らないという課題です。
運用が良い時期であれば、この保険もまた成り立ちました。しかし、被保険者は銀行から借入(かりいれ)した上で本保険料を支払っており、マイナス利回りの状態が続くことで、返済金額が借入金を大きく上回る形となりました。
しかし銀行側は、そうした状況になることを理解しつつも、保険販売を行うことで多額の手数料を得ることを優先してしまったのです。
日本版ビックバンにより、1998年以降投資信託の銀行販売が認められるようになりました。投資信託は元本変動というリスクある金融商品ではありますが、本商品の販売では毎年1000件近くの苦情が寄せられています。
その被害者の多くは70歳以上が5割、60歳以上が実に8割を超えているという状況です。一時払い変額保険と同じく、高齢者の被害者率が高いです。その背景には、本商品を売ることで金融機関には高い販売手数料が入るため、利益を追い求めて売ってきたという実情があるのです。銀行にはノルマが決められ、融資で利益があげられない中での屋台骨となってきていました。
生命保険もまた銀行で購入できるサービスです。しかし、相続に伴う高齢の女性とトラブルになる保険販売もまた多いとされています。ときに消費者の意向を無視した契約や、財産相続に関して契約者の理解がないまま契約に進むといった事例もありました。また、中にはクーリング・オフの妨害を行うといったものも存在し、顧客側に情報格差がある中で、契約が強行されている事情があります。本来の金融機関に必要な、利用者視点なき販売であることは言うまでもありません。
現在、金融機関は販売に伴う手数料や利益などの「役務収益」の獲得に血眼になっています。iDeCoやNISAは老後の生活不安や節税効果など価値ある投資の一つであることは否定しません。
しかし、その契約手法には課題も多いです。場合によっては企業融資とセットで販売するといったことや無理矢理販売しているということもあるといいます。銀行側が厳しいノルマ設定をしており、本来の資産を安定的に増やす存在から逸脱しています。
2008年のリーマンショックは、世界経済をどん底に突き落としました。金融機関以外から、資金調達や資金運用の実現が強まり、個人や企業において新たな可能性が提示されてきました。特にインターネットを活用した新たな金融サービスは多く誕生しつつあります。
まずは暗号資産。ビットコインをはじめとする暗号資産(デジタル通貨)はリアルな通貨と異なり、供給制限があり手数料も安いことなど新たな貨幣として多数のメリットを持ちます。
しかし、交換レートのボラティリティがまだ高く、取引所のセキュリティレベルが低いといった問題(通貨がハッキングされると盗まれる可能性がある)もあります。
こうした状況で、暗号通貨取引に参入する金融機関や独自のデジタルマネーを生み出す事業者も生まれつつありますが、まだまだ日本では消極的という状態です。
日本と比較して、デジタル上の金融の変化が早く起きるのはアメリカです。たとえば、「レンディングクラブ」と呼ばれるサービスは個人の貸し手と借り手を繋ぐサービスとして2006年に誕生しました。
ビックデータを用いて銀行融資しにくい零細企業に対して融資を行う「カベージ」は2009年に誕生するなど、サービスの立ち上がりも早いです。
中でもクラウドファンディングは、現在日本においても定着しつつある資金調達手法です。
アメリカ発のクラウドファンディングは市場として増加傾向にあり、国内銀行融資と比較すればまだ小さいものの、企業の将来性において寄与するといった視点で社会的な影響は非常に大きいです。
銀行にとっては、リスクが高く避けてきた分野がビジネスとして成り立ちつつある点にも注目が必要です。
日本における金融サービスは、海外の後追いの形で出来つつあるものや、新たに生まれようとするものもあります。中でも、財務会計ソフトは中小企業会計処理をサポートするだけでなく、融資を要望するときの銀行に対する財務共有のコスト低下に繋がりました。従来の一般企業融資であれば、担保や社長に対する個人補償を要求することもありましたが、本技術を利用すれば正しく企業の実態を金融機関が把握することができ銀行側の貸し倒れリスクも減らすことにつながります。
資金運用のためのフィンテックのひとつであるロボアドバイザーもまた一つの新たな金融サービスです。従来、銀行窓口で係員がさまざまな金融商品の説明を行い、顧客が金融商品を選択するというのが基本でした。その際、顧客の意に反いた商品販売や、リスク説明が不足した販売などが常態化していることは、前述した通りです。
そうした売り方と異なり、ロボアドは年齢や収入、運用期間などを記入すると顧客の資金運用を独自に代行してくれるという仕組みになっています。
少額からはじめられ、運用手数料も比較的安いというメリットがあり浸透してきました。メリットが多いサービスと思われがちですが、元本割れしているユーザーも一部では存在しているため、今後は運用能力を高めていくことが必須です。
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