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おじいさんは山へ金儲けに
村上 龍
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知識・教養
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本書は小説家の村上龍氏が、日本の代表的な昔話を「投資の概念と基本的知識を提供する」ため、アレンジし、11編にまとめたものです。

昔話は「正直者のおじいさん・おばあさんがハッピーエンドを迎える」となることが少なくありません。しかし、いまの世の中では「たとえ正直者でも、無知では経済的に成功するチャンスを掴めない」という残酷な現実もあります。

本書ではそうしたポイントも踏まえながら「投資の基本的知識」を紹介しています。

ここでは全11編の中から、「桃太郎」と「わらしべ長者」の話をピックアップしました。

【桃太郎】将来の価値と現在の価値を比べるという考え方が基本だ

あるところに、おじいさんとおばあさんがいました。二人は貧しくて、無知でした。ちなみに、貧困と無知は、人間の社会にとってもよくないことです。ただ、おじいさんは、明日もきっと今日と同じ日が来るだろうと思っていましたが、おばあさんは少し違いました。おばあさんは、おじいさんのような、何の能力もない男と結婚してしまったことを後悔していたので、今日という一日の使い方によっては明日が変わってくる、ということに気づいていたのです。

ある日、いつもと同じように、おじいさんは山へたきぎを拾いに、おばあさんは川へ洗濯に行きました。おじいさんが集めるたきぎは、アウトドアショップで売れるようなしろものではなかったので、おもに冬の間、寒さを防ぐために自分たちで使っていました。

川へ洗濯に行ったおばあさんは、暗い顔をした若い女に出会いました。よく見ると、テレビや週刊誌でよく目にする女でした。

「よい天気ですね」

と女は、わざとらしい口調で言いました。おばあさんは、その女が自殺をするつもりなのだと、すぐに見抜きました。そのあたりは自殺の名所だったのです。

「あなたは死ぬ気なのでしょう? 自殺はこの世でもっとも悪いことで、さまざまな人に迷惑をかけます。でも、きっと覚悟をしてこの山里までやってきたのだから、わたしは止めません。でも、迷惑をかける人々に、何か残していかないと、あの世とこの世のまん中で、永遠に苦しむことになりますよ」

おばあさんがそう言うと、女は悲しそうな顔になりました。

「わたしは、悪い男にだまされて、何もかも失いました。わたしに残されているのは、このわたし自身のからだと、その男とわたしの受精卵だけです。あなたがたに差し上げるものは、このわたしのからだか、この受精卵しかありません」

おばあさんは、その男の正体をうまく聞きだしました。いつもおじいさんのグチを聞いていたので、話を聞くのは得意だったのです。女にはトラウマがあったので、小さいころのことをやさしく聞いていやると、何でもぺらぺらと話したのでした。受精卵の精子は、有名な科学者のものでした。

そこへたきぎをかごいっぱいに背負ったおじいさんが現れました。話を聞いたおじいさんは、その女が欲しいと言いました。おばあさんは、おじいさんを叱りました。

「あんたは、今のことしか考えていない。この女とおつき合いしてはいけないと、わたしは言っているわけではないのですよ。考えてごらんなさい。受精卵を育てて、立派な人になれば、その人がわたしたちにお金を運んできてくれるのです」

おじいさんはあくまで女が欲しいと言い張ったので、おばあさんは、おじいさんを殺してしまいました。おばあさんは、女から受精卵を受け取り、それを桃の形をした容器に入れて、約十か月後に、無事に男の子が生まれました。桃の形の容器から生まれたので、桃太郎と名づけました。

桃太郎は、すくすくと大きくなり、あっという間に成人を迎えましたが、おばあさんの計画は狂いました。桃太郎は、科学者と売れない女優の遺伝子を半分ずつ持っていましたが、すがたかたちは科学者に似て、頭脳は売れない女優に似てしまったのです。それでもおばあさんは、あきらめませんでした。おばあさんは、二年かかって、桃太郎の秘密のすべてをノートに書きしるしました。それは出版社にアドバンス二百万円で売れ、印税も入ってきて、おばあさんは村を出ることができました。

桃太郎のほうは、家出をしました。そして、悪い仲間とつき合うようになり、キジ、サル、イヌ、モモ、という四人組で、盗みや暴行を繰り返し、佐渡島の沖合に新しく造られた刑務所に入りました。日本のサンクェンティンと呼ばれたその刑務所は、別名鬼ヶ島、と言いました。

【わらしべ長者】リスクなしにリターンは増えないが、ハイリスクがつねにハイリターンというほど世の中は甘くない

あるところにとても貧乏な男がいました。男が貧乏だったのは、世の中のことを何も知らなかったからです。世の中の仕組みや、基本的な考え方を何も知らない人は、常にだまされて生きていかなければいけないので、幸福になるのがとても難しいのです。

男は、自分が貧乏なのは運がないだけだと思っていました。それで、近所の観音さまにお祈りすることにしました。観音様が祭ってあるお寺に忍び込んで、毎日毎日お祈りをささげることにしたのです。そのお寺は、警備がルーズだったので、ホームレスの人たちも何人か住みついていました。

「あんたは、何をそんなに熱心に祈っているのかね」

と一人のホームレスが聞きました。男が、自分に運がないことを説明すると、ホームレスは、世界一幸運な人間のエピソードを話してくれました。

「その人は、あんたと同じように貧乏だったが、あるとき一本のわらを拾った。あぶがうるさく飛んでいて、そのあぶを捕まえ、わらの先に結びつけた。そのまま、あぶが結んであるわらを持って歩いていると、おもちゃを欲しがって泣いている小さな男の子がいた。男はその子どもにあぶを結んだわらをプレゼントして、そのお礼として、男の子のお母さんからみかんを三つもらった。

みかんを持ってさらに歩いていると、今度はのどが渇いて倒れている女子高生がいた。女子高生はひどく疲れて、水分が足りなくなって苦しんでいたのだった。男は女子高生にみかんを食べさせてやった。すると、女子高生は男に感謝して、イタリア製の布をくれた。

イタリア製の布を持ってそのままずっと歩いていると、道ばたに故障した二トントラックが止まっていた。男は、そのトラックとイタリア製の布を交換した。男は、そのトラックを修理して、運転し、道路を走っていったが、その途中に、引っ越しをしている家があった。頼んでいた引っ越し屋が急に倒産した、ということだった。男はその家とトラックを交換した。ひどく古い建物だったが、二年後に、そのまわりが都市開発されることになって、四十九階建てのビルが建築され、男は四億円を手にしたんだ」

そういう話を聞いた男は、その夜、夢の中で観音様に会い、お告げを聞きました。

「おまえが、この寺を出て、最初に手にしたものを、わたしからのさずかりものだと思って、大切にしなさい」

朝、男は、ホームレスの人たちと別れのあいさつをして、寺を出ました。門のところで転んでしまって、気がついたときには、一本のわらをつかんでいました。男は、ホームレスの話と、観音様のお告げを思いだし、やっと自分にも運がまわってきたと大よろこびしました。ホームレスの話を思いだし、この一本のわらが、家と交換できるのだと思いました。あぶがいなかったので、苦労してハエを捕まえ、わらの先に結びつけました。

なるべく大きな家がいいだろうと思い、高級住宅街に行って、立派なお屋敷の玄関のベルを押し、幸運のわらを持っていますのでお宅の家と交換して下さい、とインターフォンに向かって言いました。そして、みかんと布とトラックの話をしているとき、警察がやってきて、男は逮捕されました。みかんと布とトラックをくれ、と男は叫び続けたので、心の病気だということで、病院に入れられました。男は今でも、病院で、みかんと布とトラック、と唱え続けているそうです。

著者
村上 龍
日本の金融・政治経済の問題を考える メールマガジン『JMM』を主宰し、経済トーク番組『カンブリア宮殿』(テレビ東京)のホストも務める。
出版社:
NHK出版
出版日:
2001/08/25

※Bibroの要約コンテンツは全て出版社の許諾を受けた上で掲載をしております。

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