専門家が選んだマネー本を時短学習
5000円から始めるつみたてNISA
瀧川 茂一
小山 信康
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投資は必要なのか?

「つみたてNISA」の話に入る前に、なぜ投資が必要なのか考えてみよう。親や祖父母世代の多くは投資とは無縁のまま家族を養い、老後の生活をそれなりにまかなっている。彼らを見ると、投資は不要という結論に達してしまうのも無理はない。

では、なぜこれまでの生活に投資が必要なかったのか。投資をしなくても勝手に資産や給料が成長してくれていたからだ。約30年前のバブル景気の頃は、預金の利率は高水準で推移していた。元本保証の上、6%以上の利率が約束されていたのだ。また、日本の経済は成長しており、毎年給料が増えるのも当たり前だった。

しかし、現在の預金の利率は超低金利で推移している。日本経済は低成長の状態にあり、給料は据え置きとなっている企業も数多い。年金も実質的には減っていく可能性が高いという世の中では「お金に働いてもらう」ことが必要で、その具体的な方法が投資なのだ。

現代においては、生活を守るために投資が必要となる。

新しいNISAの誕生

NISAは正式名称を「少額投資非課税制度」という。 名前の通り、少額の投資であれば非課税ですよという制度である。通常、投資では利益が出ると利益に対し約20%の税金がかかり、場合によっては確定申告も必要となる。そこで、NISAという税金が取られず確定申告などの手間がかからない方法が誕生した。

しかし従来のNISAには「非課税で運用できるのは最長5年」という制限がある。投資未経験者が最初の5年間で利益をだすことは非常に難しいため、一般NISAは投資経験者が節税目的で利用する制度となってしまった。そこで、これまでのメリットを残しつつ初心者も利用しやすい制度が、2018年に生まれた「つみたてNISA」だ。

つみたてNISAでは最長20年間、毎年40万円までをコツコツと積み立て続けることができる。そして運用によって得た利益はすべて非課税で、確定申告などの手間もかからない。

投資は景気の影響をうけやすく、将来的には有望であっても一時的に大きく値下がりすることがある。長期投資は、再び値上がりするのを待って損失を回避するという戦略で、時間を味方にした長期にわたるチャレンジなのだ。しかし、途中で売ってはいけないというような制限はなく自由な売買が可能である。

さらに、つみたてNISAで運用できるのは投資信託のみで、消費者保護の措置という観点からその中でも金融庁が定めた一定の条件をクリアしたものだけのラインナップとなっている。 

また、つみたてNISAでは積み立て額についても無理する必要がない。毎月積み立てる必要もなく「毎月」「2ヵ月ごと」「半年ごと」など選ぶことができる。

毎月の積み立てをする場合は5000円ずつ積み立てするところから始めてみてはどうだろうか。毎月5000円を貯め続けることができれば年間6万円、10年間で60万円となり、投資のためのつみたてNISAでは、それ以上に資産が大きくなることも期待できる。

投資信託とは

投資信託は、自分のお金をファンドマネージャーという投資のプロに託し運用してもらう。みんなのお金を集めて一緒に株式や債券などで運用する仕組みで、情報収集から売買の手続きまで任せることができ、一人で投資を行うよりもできることの幅が広がる。

また、集まった多額の資金をもとに、何百社、何千社の株式へ投資するため、1社が倒産した時のリスクも少なくすることもできるのだ。公に募集をしている投資信託は「信託法」という法律のもとで運用されており、関係者や企業が我々の資産を持ち逃げすることができない仕組みになっているので安心だ。

一人で株式投資を行う場合は利益を生み出しそうな企業を自分で見つけなければならず、万が一株式を購入した企業が倒産してしまうと大きく損をしてしまう。


債券投資では安全性の高い投資先は利回りが低い傾向にあり、高利回りのものを探すなら、破たんや倒産の可能性が高くなるため、そうした点にも注意しなくてはならない。 


このように自ら個別に投資を行うのはなにかと面倒であり、それをまとめて専門家が行ってくれるのが投資信託というわけだ。

お金を出している割合は「口数」によって示される。 1口1円の価格となり1万口あたりで価格が表示される。これを「基準価額」といい、投資信託の運用状況によってこの基準価額が上下する。購入時と売却時の基準価額の差で、損益が決まる。 REITと呼ばれる不動産に投資できる投資信託もある。多額の資金が必要で、一人では難しい不動産投資も、この投資信託の仕組みを利用することで簡単に取引可能となる。

3つの受け身

初心者には守ることを目指した【受け身】の投資がよいだろう。 投資でおさえておくべき基本の受け身は3つ。


(1)積み立て

毎月一定額を購入し続けると、自然に「価格が高い月は大量に買わない」「価格の安い月は多めに買う」という上手な買い物ができるようになる。 この方法は「ドルコスト平均法」と呼ばれ投資の基本的なテクニックの一つだ。 機械的に同じ金額分、同じ商品を購入し続けるだけで上手な投資を行えるのだ。

(2)分散投資 

投資をはじめるにあたり、何を買えば良いのか分からなければ「迷ったら全部買う」というのも一つの方法だ。国内株式、外国株式、外国債券、国内債券等のすべてに投資してしまう。この方法が分散投資である。 それぞれが異なる値動きをするため、大儲けを期待することは難しいが、反面、大損という不安から逃れることはできる。 分散投資は、「安定して資産が増え続ける」という目標に近づく手段の一つだ。

(3)長期投資 

分散投資をしていても、短期間では安定的な運用は難しい。 過去の実績をみると、投資期間を長くすることで元本割れのリスクが小さくなるということがわかる。つまり、短期間で一喜一憂することなくより長く積み立て続けたほうが有利なのだ。

じつは「つみたてNISA」は意識しなくても自動的に受け身になるように作られている。

儲けようという考え方に、つみたてNISAは向いていない。積み立ては、時間を味方にして成長させるものだ。加えて、投資信託を選ぶ際も「儲かる商品を予想する」という意識も捨てるようにしよう。 運用を開始したら、しばらくは運用状況を確認せず、何も見ない状態で積み立てを続けるのがよいだろう。「いつの間にか貯まっていた」これが積み立てを長く続けるこつだ。

つみたてNISAを上限額である40万円まで20年間続けると積立総額は800万円になる。そしてつみたてNISAは投資の積み立てであるから、運用次第でさらに増える可能性がある。もし毎年10%の利回りを出し続ければ、800万円の積み立てが2000万円以上にもなるのだ。

しかし、投資においては損失がでるリスクもある。高い利回りをめざす際にはその分だけリスクも高くなる。投資を始める前に、自分がどこまでリスクをとれるのか、お金を増やしたいという気持ちがどのくらい強いのかをある程度明確にしておくのがよいだろう。

投資信託を選ぶ

つみたてNISAで選ぶことのできる投資信託は金融庁や金融機関が投資初心者のために厳選したもの。投資信託を選ぶ際に着目したいポイントは「長期的な成長力」だ。さらに、ある程度バランスをとった運用、つまり分散投資を行うことも心がけるべき。

つみたてNISAで分散投資を行う2つの方法

(1)複数の資産を組み合わせた投資信託(バランス型)を選ぶ
(2)特定の資産のみで運用する投資信託を組み合わせる

(1)のバランス型の投資信託であれば、投資信託を一つ選ぶだけで分散投資ができるため初心者にとってはお手軽な選択肢である。一方、もう少し自分で選びたいという人は(2)の方法で分散投資をするといいだろう。しかし、つみたてNISAでは国内株や外国株で運用する投資信託を中心にラインナップされており、債券やREITで運用する投資信託を選ぶことができないため、つみたてNISAで株式の投資信託を選ぶのと併せて、一般口座などの課税口座で債券やREITで運用する投資信託を選ぶようにするとよいだろう。

何に投資しているかで選ぶ

投資対象それぞれに、メリットとデメリットがあるので理解しよう。

(1)国内株式
メリット:日経平均やTOPIXなどをベンチマークとしているので、ニュースなどで情報を手に入れやすい
デメリット:リスクが高い、外国株に比べると成長性に乏しい

(2)外国株式
メリット:国内株式よりも高い成長が期待できる
デメリット:国内株式よりもリスクが高い。値動きの要因を読むのが難しい。為替相場の影響を受ける

(3)新興国の株式
メリット:潜在的な成長力が高い資産で運用できる
デメリット:先進国以上にリスクが高い。政情不安によるリスクや為替の変動も激しくなりやすい

(4)国内の債券
メリット:安定的な運用が期待できる。株価の値下がり時に値上がりしやすい傾向にある
デメリット:大きな利益は期待できない

(5)外国の債券
メリット:国内の債券よりも高いリターンが期待できる
デメリット:為替相場の影響を受けるためその分リスクが高くなる

(6)新興国の債券
メリット:外国債券よりも高いリターンを期待できる
デメリット:政府等の破綻により大きい損失を被るリスク

(7)REIT(不動産投資信託) 
メリット:国内の株式と似た値動きでより高いリターンを期待できる
デメリット:国内株式よりもややリスクが高い

運用方針で選ぶ

運用方針とは運用の姿勢を示すもので、「パッシブ運用」と「アクティブ運用」に分けられる。

パッシブ運用
ベンチマークに連動する運用を目指すもの。既存の数値に準拠することを目指すため、運用がシンプルで投資家が負担するコストも低い。投資初心者はパッシブ運用の投資信託を選ぶのが無難だろう。

アクティブ運用
ベンチマークを上回る運用を目指すもので、パッシブ運用よりもやや高いリターンが期待できる。 

ファンドマネージャーが細かい銘柄選別や企業分析を行うことでより高いリターンを目指すのだ。しかし時には運用結果がベンチマークを下回ることもある。また、細かい分析を行う分、コストが高くなる傾向がある。

手数料を確認する

・販売手数料
つみたてNISAで購入できるのは販売手数料のかからない投資信託のみに限定されている。

・信託財産留保額
解約時に差し引かれるもの。多くの投資信託で差し引かれなくなってきている。 もし差し引かれる場合でも、長期投資が前提となるつみたてNISAでは影響は軽微なことがほとんどであるため重要視する必要はないだろう。

・運用管理費用(信託報酬)
最も注目したいのが「運用管理費用(信託報酬)」。これは管理手数料のようなもので、投資信託を保有中、随時差し引かれるため、投資期間が長期間に及ぶほど影響が大きくなる。信託報酬は、つみたてNISAで選択できる投資信託の中では比較的低くなっているものがほとんどだが、アクティブ運用の投資信託ではこの信託報酬が高くなりやすいのでしっかり確認しよう。

金融機関を選ぶ

つみたてNISAでは、金融機関によって取り扱う投資信託が異なるため、口座を作る金融機関選びがとても重要だ。自分自身で商品を選択できる人は、積み立てる商品の目途をつけてからその商品を取り扱っている金融機関を選ぶとよいだろう。自分で選ぶのが難しいという人は、金融機関選びから始めてみよう。

投資が初めての人 

銀行や証券会社の窓口などで相談しながらつみたてNISAを始めるかどうか決めたほうがよいだろう。金融機関によってはアドバイスサービスやコールセンター等が充実しているので、そうしたサポート体制をもとに選ぶこともできる。

たくさんの投資信託の中から選びたい人 

大手の証券会社や銀行は初心者でも選択しやすいように取り扱い商品を絞り込んでいる傾向がある。多くの投資信託の中から選ぶなら、インターネット系の証券会社がおすすめだ。

金融機関を選択したら、インターネットや窓口で申込みを行おう。

つみたてNISAのメンテナンス

長期的に良い投資を行うためにはメンテナンスが必要だ。特に心掛けたいのが「リバランス」である。

たとえば、40万円の資金を用意して(1)株式投資信託に20万円、(2)債券投資信託に20万円投資したとしよう。その後、(1)の価格が2倍に値上がりしたとすると、(2)株式投資信託の方は40万円、(2)債券投資信託は20万円となり、(1)の比率が高まるのでその分だけリスクも高まることになってしまう。

そこで、株式を10万円売却して債券を10万円購入すれば、(1)株式投資信託に30万円、(2)債券投資信託に30万円となり、バランスを元に戻すことができるのだ。これをリバランスと呼ぶ。

つみたてNISAでは債券のみで運用する投資信託はなく、一度売却してしまうと非課税のメリットを失ってしまうため、自分でリバランスをすることができない。リバランスを行う場合は、一般口座やその他の特定口座を駆使してつみたてNISA以外の資産全体のバランスを調整する必要がある。バランス型の投資信託を購入すれば、商品内で自動でリバランスを行ってくれるので手軽である。

売却は20年にこだわらなくてよい

つみたてNISAを始めて5年目や10年目であっても、これ以上は値上がりしないと判断する場合は早々に売却して利益確定をしてもよい。また、損失が発生していて価格の回復が見込めない場合も、早々に見切って売却(損切り)してもよい。一部売却も含め、20年までの間の売却は自由に行える。売り時に迷ったら、積み立てたときと同じように、少しずつ売ることも検討してみよう。

ここまで触れてきたように、つみたてNISAは初心者が利用しやすいように設計された制度である。もし「つみたてNISAは使いづらい」と感じたのであれば投資家として初心者を卒業したということかもしれない。そんな時は一般NISAを使い、年間120万円という大きな非課税枠を使って投資を楽しんでみるとよいだろう。

タイミングを気にせずにコツコツと積み立て続ける点がつみたてNISAの特徴である。「投資する」ことよりも「貯める」ことに意識を向けて、資産形成をはじめてみてはどうだろう。

著者
瀧川 茂一
プルーデント・ジャパン株式会社代表取締役。多くの運営管理機関からのアウトソース業務を請けつつ、大手確定拠出年金制度導入企業から直接「加入者目線の継続教育」の企画を依頼され年間200回以上の「DC継続教育」プロデュースを手掛ける。
著者
小山 信康
CFP(R)、FP技能士1級、1級企業年金総合プランナー、DCコンシェルジェ(R)。主な著書は『投資は投資信託だけでいい』『リターンとリスクがよくわかる図解投資のカラクリ』(小社刊)、『貯金のできる人できない人』(マイナビ新書)、『お金持ちは2度カネを生かす! 』(経済界)など。
出版社:
彩図社
出版日:
2018/01/23

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