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安いニッポン「価格」が示す停滞
中藤 玲
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経済社会
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世界で最も安い「夢の国」

ディズニーランドの入場料は実は日本と比較すると、海外では2倍以上です。もしあなたが海外旅行を行いつつ、食事やお土産物まで購入することを加味すれば、想定以上に滞在費は積み上がっていくものでしょう。

かたや東京ディズニーリゾート(以下TDR)。新型コロナウィルスのまん延後にはTDRは入場料を上げたものの、それでも円安により世界的に見ると非常に安い入場料設定となっているといいます。

ではお得を享受しているかというとそういったことではありません。交通費と入場料を合わせて1万円を超えるから「水筒を持ってきた」という人もおり、海外から見ると確かに安いかもしれないが日本人目線でみると高いのです。

たった一つのサービスでしかありませんが、日本人の立場と海外から見た実情視点では大きく異なるということがお分かりいただけるはずです。

安さの象徴100円ショップも異なる視点

さて、皆さん安くてコスパの良いお店というと何を想像するでしょうか。おそらく、ディスカウントストアや100円ショップなどがパッと頭に浮かぶはず。

ダイソーが100円という価格ベースとしているのは実は日本だけという衝撃の事実があります。アメリカでは1.5ドル。タイでは60バーツ(日本円と比較すると倍)。いずれも現在の為替換算をすれば2倍を超える金額となるでしょう。

その背景には物流費や賃料、関税や検査費などが日本と異なる事情があります。高い品質を維持しつつ、品揃えや人件費などを高めるためには価格を値上げするべきだと で考えたいものですが、それを行うと売上が減るというジレンマを気にします。事実ダイソーは、1977年の商品価格を100円に統一化した当時から全く価格が変わっていません。

これは果たして正常な状態でしょうか?

なぜ価格が上げられないのか

価格を上げられないのは、高くすることで買い手が減り、単に売上が減るからというだけが要因ではありません。

本来であれば、製品を値上げし企業が儲かる。その結果、賃金が上がり消費が増えるというメカニズムで経済は成長していきます。しかし、日本ではデフレが長く続いたことで購買能力が大きく低下。低い価格でなければ購入しないという大前提がマーケットに敷かれてしまいました。

海外価格の場合は、商品が値上げすることやインフレーションが内包された価格上昇が存在します。物価が上がるごとに、それ以上に給与が上がっている構造ができていますが、逆に円は価格を上げることに大きなアレルギーがあります。その結果たったの20年で円は実質的な価値が急落してしまう状況になってしまっています。

外食産業において、売上が減る実例となったのは「鳥貴族」。コストパフォーマンスの良い居酒屋ということで、安価ながらファンも多く存在していました。しかし、海外輸入原材料の高騰などにより、一律で値上げしたところ、途端に客足が伸び悩む結果になったといいます。そうした事情もあり、単に値上げするよりかは、ステルス値上げと呼ばれる内容量を減らす方向にシフトしていきました。

ただ、価格上昇が客離れを引き起こさない例外もあります。それは2019年にカット料金を1080円(税込)から1200円に引き上げた「QBハウス」です。同様のビジネスモデルは競合や代替店舗が少ないため客離れは想定より少なかったそう。値上げをすることによって客を奪われやすい飲食店や食品業では少し難しいのかもしれません。

年収1400万円は低所得

「給与」についても、日本的な視点で見ると勘違いしてしまう事柄があります。

それは、日本でみると高給取りだが、アメリカからみると全く異なるということです。

例えば年収1400万円。この年収であれば、誰もが羨む高給取りではないでしょうか。ですが、アメリカのサンフランシスコ在住者からみると、非常に貧しい給与となります。

その根拠は米住宅開発省の分類です。2020年における年収分類では13万9400ドル以下の人は低所得者とされています。21年1月の為替レートで考えれば年収1400万円を超え、22年9月の為替レートであれば実に2000万円を超えます。

ここから比較するに、港区の平均年収と呼ばれる1200万円は日本人から見れば非常に高い金額ですが、サンフランシスコの人からみれば低所得者扱いになるわけです。

ただ、高い給与と比例するかのように生活にかかるコストもまた高いのがインフレ状態の国の特徴。家賃は月に60万円を超えることも想定されますし、朝食は3700円を超えます。もちろん、こうした価格は給与として再還元されています。

これから考えなければいけない安さの弊害

安いことは短期的には豊かさに感じられます。しかし中長期的に見れば貧しさに直結しているのです。コストパフォーマンスが良いことや、安くても質の良い生活やサービスにありつける時代は終わりをつげるかもしれません。

コロンビア大学の伊藤隆敏教授によると「日本の安さはいずれ大きな問題を引き起こす」といいます。

大まかにまとめると以下の通りです。

(1)個人の問題

海外旅行やブランド品などを購入することができず、欧米やアジアからは日本に旅行されにくる場所となってしまう。

(2)人材流出

国内の賃金が低くなれば、英語ができて能力の高い日本人は海外企業へ流出する。結果、日本企業が優秀な人材を求めて海外に移転する可能性もある。

(3)人材が育たなくなる

海外大学の授業料が高くなることで留学ができなくなり、安い給与で甘んじなければいけない職種しか選べなくなる。

(4)国際的な活躍の見込みが立たなくなる

国際競争力が低くなり、他国と比較して後塵を拝することとなる。企業活動や国防などにも影響が出る。

著者
中藤 玲
日本経済新聞社 企業報道部記者。早稲田大学政治経済学部卒、米ポートランド州立大学留学。2010年、愛媛新聞社入社、編集局社会部(当時)。2013年、日本経済新聞社入社。編集局企業報道部などで食品、電機、自動車、通信業界やM&A、働き方などを担当。
出版社:
日本経済新聞出版
出版日:
2021/03/09

※Bibroの要約コンテンツは全て出版社の許諾を受けた上で掲載をしております。

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