お互いが密に連携し、成長した時代は過去のものとなり、いつかは将来に向けて国民一人一人が自己責任で資産運用していく時代が来るのは間違いないでしょう。
ただ、そうした予測が立っているにもかかわらず、日本人のお金の思考はどちらかといえば貯蓄主義的なところがあります。
家計から広く預金を集め、企業に対して貸出をする。そんな資金仲介業が金融機関の古くからのビジネスモデルでした。
しかし、1980年代には、金融機関が「財テク」と称し、投資や不動産をすすめることも少なくありませんでした。
それが金融機関の悪い印象となり、金融機関の窓口担当者の中には資産運用をプッシュすることに後ろめたさを持つ人もいるといった状況でした。
ここ数年で、その動きもまた変わってきています。2022年度から高校の家庭科において金融教育が開始しました。また、成人年齢の引き下げにより18歳から証券口座開設や生命保険の契約が可能となり、若い世代の資産運用への“きっかけづくり”が進みました。
また改正年金法が施行。年金を退職後すぐではなく、75歳から受け取るといった選択も可能となり、より戦略的にお金を受け取ることも可能となりました。そして、ついに個人金融資産は2000兆円を突破し、状況は大きく変化してきています。
市場環境と制度設備が揃ってきたことにより、2022年以降は昭和的な貯金から融資といったモデルからの脱却が一気に行われる可能性が高いと言えるのではないでしょうか。
日本においては、バブル崩壊により強烈な株安となりました。また、円高による雪の時代が長期に渡り到来しており、ネガティブ意識が形成されてきました。その頃に本腰を入れて日本株で資産運用をしていた人は、多かれ少なかれ損失という痛みを伴った投資をする人が多かったです。
対する米国の場合、日本のような損失のトラウマはありません。2000年前後のITバブルや2008年のリーマンショックなど、短期的な損失はあったものの、押し並べて40年近く高い利回りを維持できています。結果、株を使った資産形成について信頼感や安心感が生じやすい環境が形成されています。
では、日本はバブル崩壊後にはずっとトラウマになっているかというと、世代が変わることで価値観もまた変化しています。中でもアベノミクス世代の若者は、デジタルネイティブな世代であり、資産運用カルチャーをつくりつつあり、40代以上の世代と比較して積極的な投資を行っているようです。
また、戦後からの日本経済は他の通貨と比較して円高にバイアスが向いてきました。バブル崩壊後はより顕著となり、資産デフレと円高による縮小均衡状態へと陥り、どうしても海外投資への関心が集まらなかったという背景も存在します。それがここ10年で円高一辺倒からの再変化がおきつつあるというのが今の状況です。
実際の長期投資の場合はどうなるのでしょうか。実は長期投資であればいつから投資をしても一定のプラスのリターンを受け取ることができ、長期になればなるほど利回りが安定するという期待が可能でした。
ですが、トラウマを経験した世代には投資をたとえ始められたとしても、長期で投資を完遂するのは容易ではありません、
では、保有金融資産を年齢階級別割合でみるとどうなるでしょうか。実は、60歳以上が6割を保有する状況であり、その状況はおそらく今後も変わりません。しかしながら40代以降の世代は負債負担もまた大きく、主体的な活動に転じた場合に貯蓄から投資へのシフトが柔軟に行われる可能性もあるといえます。
1951年は男性の平均寿命は60歳に到達しておらず、55歳の定年間近の男性は老後資金や高齢者の医療は必要とされていませんでした。それが、2020年以降は人生100年時代と呼ばれるほどの超高齢化社会へと変革。国民一人一人に老後のための資産運用が必要となりました。
こうした個人のニーズの変化に対して金融機関側も新たなモデルを模索する必要が出てきています。従来の企業セクターの資金不足に対して、個人の預金を融資するモデルはここ20年にわたり資金余剰状態です。金融のニーズもより保険やローン、資産運用に対してのニーズに沿っていくような転換がなければ、今後は生き残りも難しくなっていくのではないでしょうか。
戦後の日本はモノづくりに邁進し、それを海外に輸出することで儲けるという貿易立国モデルで成長を遂げてきました。しかし、今や日本の経済の姿は大きく変化し、貿易収支もゼロに近い形になっています。むしろ現在では海外の成長を取り込んでいく投資立国へと転換してきています。企業だけでなく個人も賢い投資家になることが問われているのです。
今日の政策課題も、分配ありきだけではなく、あくまで成長ありき、国富の拡大、国家価値引き上げ、そのための資産運用重視であるべきです。経済のパイ自体が大きくならなければ、その実現も難しいものです。
だからこそいかに国を富ませ、国民を豊かにするかという基本にたち帰る必要があり、皆が貧しくなってしまう縮小均衡のスパイラルに入り込んでしまったことを改めて認識すべきです。金融機関はそのサポートに徹し、人々は自己責任の投資を視野に入れ、貯蓄ばかりに矛先を向けない。そうしてはじめて、持続的成長の実現につながっていくはずです。
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