TRW社の著名な科学者サイモン・ラモは「勝者のゲーム」と「敗者のゲーム」の決定的な差について説明している。テニスには2種類のゲームがあり、1つはプロのゲームで、もう1つはその他大多数のゲームであるというのだ。
いずれのゲームもプレーヤーは同じ道具、服装、同じルールに従うが、この2つはまったく異なるゲームである。統計分析の結果、ラモ博士は次のように要約する。
「プロは得点を勝ち取るのに対し、アマはミスによって得点を失う」
プロのテニスは、勝つためのプレーで結果が決まる「勝者のゲーム」である一方、アマチュアのテニスは相手のミスによって得点が入り試合に勝つ「敗者のゲーム」なのである。
資産運用と呼ばれるマネーゲームも最近数十年で、「勝者のゲーム」から「敗者のゲーム」へと変わった。証券運用の世界で根本的な変化が起きたからだ。
市場より高い成果を上げようと懸命に努力する機関投資家が多数現れ、市場を支配するようになった。現在、ヘッジファンド、投資信託、年金基金などの機関投資家は取引所の取引の99%を占める。
今日のマネーゲームは、彼らが一日も休むことなく、激しい運用競争を繰り広げている。運用期間の数が膨大で能力も高く、顧客のために質の高いサービスを提供するからこそ、資産運用が「敗者のゲーム」となった。
株式市場に起こった変革は他にもある。
インターネットとメールが世界中に技術革新をもたらし、投資家はいつ、どこにいてもすべての情報を得られるようになった。
全員が同じ情報を共有し、巨大なコンピューターを駆使し、市場に勝とうと全力を挙げることができるようになったのだ。
運用機関などのプロの投資家が席巻する昨今の市場では、あなたは絶対に平均以下に陥る。
プロの投資家はあなたの一生の取引量よりもはるかに多い桁違いの取引を、たった一日で巧みに行うからだ。市場全体の9割を占める機関投資家が行う取引は、自分より技術も知識もはるかに高い人たちによるものだ。
レベルの高い競争相手が多ければ多いほど、常に良い結果を出すことは難しくなる。 市場に勝つことを目指して、敗者のゲームに参加すれば負けはほぼ見えている。
だが、悲観することはない。勝つ方法はある。そのためにできることは次の通りである。
・現実的な投資目標を決める
・その目的を達成するための現実的な投資方法を選ぶ
・その方針をぶれることなく辛抱強く貫く
私たちは本当の勝者のゲームができる。これが本書で伝えたいことのすべてだ。
市場環境が変化したことから、アクティブ運用は全体としてはマイナスになるネガティブゲームだということを強調しておきたい。
世界最大の情報と予測を武器とするアクティブマーケットでは、高度な情報とIT装備と経験を備えた優秀で長時間働く運用のプロに勝つ事はますます難しくなる。
また、大手証券会社のアナリストは最新情報と自分の評価を世界中に瞬時に伝え、それを受け取ったファンドマネージャーは競争相手が動く前にと行動を起こす。運用機関がいち早く互いに売買する結果、ほかの人より優位に立つことが難しくなった。
つまりアクティブ運用において、超長期にわたって運用する投資哲学など、ほとんど発見されなかったということだ。 アクティブ運用で利益を得る唯一の方法は見落としや過失によって、プロの競争相手の予想が誤ったときである。
しかし、その頻度はどれくらいだろうか? 多くの人と逆の行動を取る知恵と勇気を持てるのか? 生涯にわたる投資を成功させる方法は、自分のミスを減らすことだ。
投資で長期的に成功したいなら、答えはシンプルだ。実行が簡単なインデックス・ファンドを買うこと。
平均なんて嫌だ、市場に勝ちたいと思うかもしれないが、個人がプロに勝とうとするなんて100年早い。インデックス・ファンドとはいわば投資のドリームチームを結集したようなものだ。世界中のポートフォリオマネージャーと、そのアナリストが毎日、それも一日中あなたのために投資仲間として働いてくれる。トッププロの投資判断を一つにまとめてしまうには、インデックスで投資をすること。
インデックス・ファンドは市場をそのまま反映している。投資のプロが席巻している今日の市場は、まさしくプロの動きの総和を示す。
彼らは情報を得ると素早く株価に反映させる、つまりインデックス投資をすれば、直ちに専門家のコンセンサスを得られるということだ。
インデックス・ファンドを使えば、ドリームチームが私たちのために働いてくれるだけでなく、大きな安心感を得ることもできる。多くの人は過去の投資の失敗を引きずり、今後も損をするのではないかとヒヤヒヤしている。だが、インデックス・ファンドではその心配がない。
さらなるメリットがある。
手数料が低く、税金が安く、実行コストが下げられることだ。アクティブ運用の経費は高く、投資リターンを著しく損なうが、インデックス・ファンドではそれが避けられ、結果的に大きな利益を確保できる。
投資成果に対しては市場、運用機関、投資家自身が責任を持っている。最も重要なのは投資家であり、運用機関の役割は最も小さい。
投資の最大の問題は、投資家が期待リターンを実現できるほど株式を長期保有し続けられるかということだ。つまり私たちの問題であって、市場の問題ではない。私たちが市場を認識し、それにどう反応するかという問題だ。
これまで多くの人が犯してきた間違いを避けるには、どうすればいいのかを知っておく必要がある。 ほとんどの投資家や運用広告はリターンという投資の一面しか見ていない。だが、長期的な運用の成功のためにはリスクの方がはるかに重要だ。
人間は感情的で、非合理的な生き物だ。最近の行動経済学によると人間は常に合理的に行動するわけではなない。例えば、
・平均への回帰という社会科学の原則を忘れる
・統計的な確率を無視してしまう
・専門家の意見を過信し、尊敬する人の勧めに従う
・印象的な出来事や大きなニュースを重視しすぎる
・新しい情報に過剰反応する
といったものだ。投資も例外ではない。
だからこそ、投資と資本市場をきちんと理解しなければならない。自分自身に騙されないように、自らのリスク許容度と運用目的を常に確認する必要がある。
投資家が避けるべきリスクの1つを挙げよう。それは、忍耐力の不足である。
1年で10%上がる投資の1カ月の平均上昇率は1%にも満たない。1日単位の上昇率はほぼゼロに近い。
従って、毎日の株価の動きを気にしても意味がない。株価は四半期に1度見れば充分だ。年に一度以上売買判断をしているなら、それは多すぎる。
投資で成功するには、自分の状況にあったポートフォリオを作る必要がある。市場の長期的な上昇力を上手く捉えられるようなポートフォリオを策定し、それを軽々しく変更しないところから成功は得られる。
運用期間の長さ、すなわち運用成果の評価期間の長さは、どんな運用プログラムにおいても極めて重要だ。充分な時間が与えられれば一見、魅力的とは思えない運用も意味があるものになる。
運用期間が充分長ければ、短期では大きなリスクと見える運用手法を不安なく取り入れることができる。
収益率にとって重要なのは投資期間の違いである。それがいかに重要かを示すために普通株の期待収益率を例にとって、時間の効果に注目してみよう。
株式の収益率変動幅は、 まず1年間の収益率を見ると数字は大小さまざまで全くバラバラだ。最高リターンは53.4%、最悪では37.3%の損失となる。予想される収益率の変動幅が大きく、バランスを欠いている。普通株の短期保有は投資でなく、投機でしかない。
5年の期間で見ると多少の規則性が出てくる。10年になると収益率の規則性はさらに増し、ほとんどの年間平均収益率が5%から15%の範囲に入る。
20年になると、ますます多くの規則性が見られ、利益率は長期期待平均収益率の近くに集まってくる。
最近の調査ではリスクと収益率のトレードオフは時間の取り方に強く影響されることが示されている。長期的思考ができるようになれば、投資手法も変わり、長期リターンも必ず高まっていくだろう。
運用収益は2つの異なる要素からなる。1つ目は、利息や配当から得られる予測可能な収入(インカム・ゲイン)。そして2つ目は、特に短期的に予測不可能な市場価格変動に伴う利益または損失(キャピタル・ゲインまたはロス)である。
多くの人が値上がり益を増やすために多くの時間をかけて工夫を凝らすがこれは、大きな間違いである。市場価格の変化は、アクティブに投資する人たちによって決定されるからだ。
競争相手のほとんどは同じように有能で、多くの情報と装備を持ち、常に努力を怠っていない。 より広範な知識、より賢明な解釈、より良いタイミングがもたらす比較優位を求めている野心的で優秀な相手に競争を挑むことになる。
厳しさと魅力、苦痛と希望、ストレスと幸福感に苛まれる競争でもある。
次に、普通株の価格評価について述べる。
なかなか複雑にみえるが、2つの要素によって決まる。一つは将来性のある時点で企業収益と配当金額がどうなるか。もう一つは将来の予想利益から現在価値を逆算する割引率についてだ。
長期投資において大切なことは、株式保有期間が長くなるにつれ、企業収益と配当実績の影響が大きくなり、割引率の重要性は、小さくなるということだ。長期にわたり保有すると、現在の株価の意味は小さくなり収益や配当が大きな意味をもつ。
反対に短期投資では日々または毎月の市場変化と投資家心理が重要になってくる。毎日目まぐるしく変わる天気のように驚かされることが多い。
長期の運用のためには、運用の基本方針を策定したら明確に文書化し確認しておくべきだ。
最大の理由は、市場が混乱し、自分の運用基本方針への信頼が揺らぎそうな時、その場しのぎの方針変更からポートフォリオを守るためである。
投資の失敗は、市場や特定の銘柄への投資などによる外的要因か、自分の感情などの内的要因か、またはその両方によって起こる。
さて、運用のプロセスは一見複雑だが、次の5段階に整理すると分かりやすい。
1.長期の運用目的の決定と望ましい資産配分比率の策定
2.株式の配分の決定
3.アクティブ投資か、インデックス投資かの選択
4.アクティブ運用を選ぶ場合どの会社どのファンドにするかの決定
5.個別銘柄選び売買の実行
最小コストで最大効果を生み出すのは、第1段階の適切な長期目標と資産配分である。第4段階、第5段階の個別ファンドや個別銘柄の選択は最もコストがかかる割に効果はほとんどない。
これが、「敗者のゲーム」の究極の皮肉な結果だ。
私たちは得てして個別銘柄の選択で勝つことに夢中になりがちだ。このゲームに勝とうと夢中になると高くつき得るものはほとんどない。それどころか、一番重要な第1段階を忘れてしまう。
自分の運用基本方針を決めること。そして長時間それをブレずに継続することが達成したい結果を得るための早道だ。成功するかどうかは他人との戦いではなく、自分自身との戦いなのである。
※Bibroの要約コンテンツは全て出版社の許諾を受けた上で掲載をしております。
ファンドマネージャー時代を含めて、最も繰り返し読んだ本です。本文の随所に赤線を引き、書き込みもしました。『勝ちに行く』から『負けないことが勝ちになる』ということをこの本から学ばせてもらいました。投資家全員に読んでもらいたい一冊です。- 川口 一晃 -
資産運用において重要なのは、利益を上げる方法や勝ちにいく方法を追求することではなく、負けないことです。また、市場から退場しないことも重要であり、この書籍ではそのような点を分かりやすく説明しています。例えば、「稲妻が輝く瞬間」というものがあり、1980年から2016年までの36年間において、最もリターンが高かった10日間を逃すだけで、S&P500の平均リターンは11.4%から9.2%に低下することが記されています。このような好機がいつ訪れるかは予測できないため、市場に継続して参加することが重要だと本書では解説されています。投資をこれから始める方にもお勧めできる一冊です。- 森永 康平 -
インデックス投資の優位性について書かれた書籍です。投資で絶対に儲かる方法はありません。また同じ波が二度来ることもありません。この書籍は、投資家が市場に左右されず、長期投資で資産を築く為の基本を学ぶことができます。テーマ型の投資信託は証券会社などで人気のある商品のひとつですが、証券会社の営業マンと会う前に、インデックス投資について書かれた本書を是非一読下さい。- 江幡 吉昭 -