何かを選び物事の判断をするときは、脳が働いています。この脳の働きは、できるだけ省エネモードとなるようにできています。
身の回りに起こることすべてに思考を働かせていたら、脳は疲れてしまいます。物事を深く考えることをなるべく減らして、さまざまなことを自動的にいつもどおりに処理しているのです。
その結果、わざわざ損をする方を選んでしまったり、ごまかされることに喜びを感じたりします。
例えば、マジックでは派手な演出等で観客の注意をトリックからそらす「ミスディレクション」が使われています。私たちの脳は「ミスディレクション」によってマジシャンの意図に半ば強制的に従わされています。
普段、私たちがお金を使うか使わないかの判断をする場でも、これと同じようなことが起こっています。特にセールスや広告には私たちを「無意識にお金を使う」方向に誘導するための様々な工夫がなされています。
ムダづかいをなくし、より満足度の高いお金の使い方をするには、脳を誘導から守ってあげることが不可欠です。 賢く買い物をするためには、脳を惑わす認知バイアスを見抜き、正しく判断し直すことが必要です。
次の章では、脳が「欲しい」と感じてしまう仕掛けと対策方法を紹介していきます。
「これは私のためのもの!?」と思えるような一品と出会えた時には、高揚感を覚えるものです。でもちょっと待ってください。その“ときめき”で買い物をして後悔したことありませんか?
ときめきの正体は、脳の中に「ドーパミン」という物質が分泌されることによってもたらされた一時期の興奮にすぎません。 報酬系といわれる神経回路が盛んに刺激され、私たちの脳は快感を覚えるのです。
報酬系による快楽は、生み出されたそばから消えていくため依存度も高くなります。
【対策方法】
ドーパミンの影響を最小限にするには、その対象から距離を置くことが基本です。
・ネットオークションやネットフリマはしない
・欲しいものを目の前にした時の脳の高揚感に気づく
・脳の高揚感にとらわれていると感じたら、できれば3日最低でも15分時間を置いてそれでも欲しければ買う
仕事帰りの居酒屋で頼む最初の一杯が「とりあえずビール」となったり、友達が頼んだものを「同じもので」と頼みやすいのも、周囲に合わせるという脳のクセによるものです。
脳が大勢の人が選んでいるから良いものだと認識してしまうことを「バンドワゴン効果」といいます。私たちの脳は他人と同じ行動を選択することで、極力少ない労力で最大のメリットを享受しようとしているのです。
特に私たち日本人は、この脳の癖が強力です。ブームが生まれやすいのもこのためで、お店に行列ができていると、行列につられ皆が並び始め、どんどん列が長くなっていきます。
この大行列もバンドワゴン効果の一例です。
【対策方法】
大勢の意見に従っていれば楽ですが、誰かの意見や判断を鵜呑みにしているだけです。あなたに合っているかどうか思考が停止した状態です。
・人と同じ、皆がこうしているからを決め手にしない。
・他人の意見が食い違った時は人に合わせる前にまず自分の意見を深めること
「ランキング1位」などの謳い文句だけで、そのものをよく見ないまま選んでしまうことがあります。でもテレビのランキングは、調査対象や質問の仕方次第で変わってしまいます。
このような目立ちやすい特徴に影響されて、ほかの条件を簡単に変えてしまう脳のクセをハロー効果といいます。
このハロー効果を多用しているのが、テレビcmや雑誌の広告です。広告業界では「3B(Beauty〈美人〉Baby〈赤ちゃん〉Beast〈動物〉)を使うと注目されやすく、好感を持たれやすい」と言われています。
【対策方法】
商品そのものの魅力ではないことで欲しいと思ったならば、ハロー効果の影響を疑った方がいいでしょう。
・人気・人のオススメ=価値が高いと言う思い込みを捨てる
・「美人・赤ちゃん・動物」が登場する誘導効果の高いCMは、一歩引いた視点で見る
・もともと欲しかったものか? どのくらいの頻度で使うのか? お金を払う前に自分の日常と照らし合わせる
私たちの脳は「いつも通り」が大好きです。その分、予測できないこと、未知の出来事を嫌います。
例えば、家電量販店に行って「現品限り50%オフ!」と書いてあるデジカメを買った。それが1週間もしないうちに壊れてしまったりすると「やっぱり安売りされてるにはワケがあるんだね」と言ってしまう。
サッカーの試合で決勝点を決めた選手に「いやー、彼が決めてくれると思っていましたよ」という解説者もよくいます。
このように、後になって実は予測ができていたと思い込むことで、脳は未知のものから受けるストレスを減らそうとしているのです。
これを繰り返していれば、いつまでたっても本当の意味での反省には繋がらず、ムダづかいも減りません。
【対策方法】
ただ50%オフという数字につられて買ってしまっていたとしたらムダづかいだったと素直に認めることが不可欠です。
・セールをしている時は安く売る理由が必ずある
・買って結局使いこなせなかったものは、買い物の失敗例としてきちんと経験値を蓄積して行く
質問です。次のAとBのうち、どちらか一つのゲームだけに参加できるとすると、どちらを選びますか?
A 参加すれば無条件で100万円をもらえる
B コインを投げて表が出たら200万円を貰えるが、裏なら何ももらえない
次に、あなたに100万円の借金があるとしましょう。その返し方を次の二つから選んでいいと言われたら、どちらを選びますか?
A 借金した分の100万円を払う。
B コインを投げて表が出たら全額免除されるが、裏が出たら200万円を払う
この2つの設問は、有名な行動経済学の実験です。得と損の「価値の感じ方」の違いを説明した理論で、「プロスペクト理論」と呼ばれています。
確率論的に見れば、この2つの質問はAとBのどちらを選んでも期待値(手に入るお金の見込み額)は同じです。
実験の結果、多くの人は1問目ではAを、2問目ではBを選ぶことが分かっています。
何かをもらう時は量が少なくなっても確実にもらえる方を選び、返す時はあわよくば返さずに済む方を選ぶのです。
【対策方法】
私たちの脳は得よりも損を多く見積もるという傾向にあります。とにかく損をしたくないという働きが強いのです。 メルマガで情報を取ることやノベルティをもらうことも損をしたくないことからきています。
・通販サイトやショップのメールやはがきはすべて解除する
・ノベルティそのものに、お金を払う価値があるかを考える
私たちが何かを購入しようとするとき、必ず「何かの基準」を元に、相対的に検討します「何かの基準」として最も参考にしやすいのは直前の数字です。
元値が9万8千円という値段に4万9,800円の値段が貼られていた時、断然「お買い得だ」という判断をしやすくなり、購入に繋がりやすくなります。
このように一度脳が出した判断は主に価格において、将来の決断にまで大きな影響を与えます。
ホテルのラウンジで飲むドリンクは1杯1,000円以上する事もあり、一般的には高いと思うでしょう。では自動販売機で購入するジュースはどうですか? 1本だいたい150円前後。これなら気軽に買えるという人も多いでしょう。
【対策方法】
ふだん何気なく行っている習慣をこの観点で一度見直してみましょう。今までの経験がそれを欲しいとか、必要と錯覚させているだけかもしれません。
・値下げしていて衝動買いしそうになったら、スマホなどでほかの店での価格を検索してみる
・月ごと3カ月ごと1日ごとなどのタイミングを決め、習慣的な出費を見直す
インターネット通販では、5,000円以上で送料無料といったサービスがあります。このように〇円以上と言われると、つい私たちはその金額を目標に欲しいものを決めるような買い物の仕方をします。
「無料」という言葉がつくだけで、私たちはコストがゼロであるかのような錯覚に陥ってしまうのです。
このような心理は「フリーミアム」と名付けられています。「フリー(無料)」と「プレミアム(割増料金)」の造語で、スマホのアプリでよく使われるマーケティング戦略です。
こんなクイズに答えてみてください。「50人に1人無料」というお店と、「全ての商品を5%値引き」というお店があるとしたら、あなたはどちらが得だと思いますか?
実は50人に1人無料というのは、平均すればお店の総売上の2%引きでしかありません。それならば一律5%値引きの方が消費者にとっては利益が大きいはずです。
【対策方法】
無料という魅力的なキーワードには、私たちの判断を鈍らせてしまう魔法の力があります。
・無料のものには無料になるだけの理由や戦略がある
・無料はコストゼロではないことを知っておく
・無料がウリのものには極力近づかない
ここからは、脳のクセや衝動に流され、「お金を払う」という判断をしてしまわないように、「満足度の高いお金の使い方」のルールを見ていきましょう。
その基本はただ1つ。
「そのモノや体験にお金を使う時に“ストーリーを正しく描く”ことができましたか?」と自分に問いかけてみることです。
ストーリーとは何か? 例えばショーウインドーの洋服を見て。「来週のお出かけにはこういう服があったらちょうどいい」などと描いていますか? ということです。
このように具体的にイメージして買ったものはムダという後悔はしにくいでしょう。
正しいストーリーの描き方は次の3つです。
1 主人公は必ず私、自分にする
「店員さんが着ているあの服流行ってるし、いいかも」
というストーリーの時は「店員」を主人公にしてしまっています。これは自分の決断だろうかと確認することが、自分を成長させる秘訣です。
2 いつどこで誰と使うのかが具体的に描ける
ストーリーを具体化する時に無理のあるものはタダで貰ったとしてもムダです。場所を取るばかりでうまく活用できない可能性が高いでしょう。
3 見栄や見返りに踊らされていない
自分の持ち物を考えるとき、私たちはどうしても見栄の心理が働きます。虚栄心の含まれたストーリーを描いてしまったとしたら、ムダづかいです。他人と自分を比較するのではなく、他人を喜ばせるような調和的なストーリーを描けた場合は、お金の使い方は有用と言えます。
認知バイアスや脳のクセに気づくためには「メタ認知」という力が必要です。
「メタ認知」とは脳科学の分野で使われる言葉で、自分の認知活動を客観的に捉え、行動を制限することを指します。言い換えれば、自分の行動や思考を客観的に見る事ができる能力ということです。
メタ認知力のある人は、より上手にお金を使うことができるようになっていくはずです。
メタ認知力を高めたいと思ったら、自分を神様の視点で見る習慣をつけましょう。思わずしてしまったこと、その日に起こったことを神様の視点で「なぜ? 」とか「どんなことがあった? 」と振り返ることで高めていくことができるのです。
メタ認知力が低い人のための節約のコツを3つ挙げておきます。
1 現金主義。クレジットカードを使わない
2 熟成肉法。衝動的に欲しくなったものは3日待つ
3 買いだめ禁止。「安い」が理由の買い物はやめる
お金の無駄をなくそうとした時、陥りがちなのが、ちょっとお金をケチって時間をかけるということです。
お金以上に無駄にしてはいけないもの。それは時間です。時間の無駄はお金以上に深刻です。時間のムダづかいは決して取り戻すことはできません。
さらに愚痴に関しては、無駄な時間どころの話ではありません。愚痴や文句を言っている時間は、嫌な事に気持ちを集中させています。
過去に起きてしまった取り返しのつかないことは、いくら喋ってもどうにもなりません。あなたのストーリーにとってプラスになるようなことは一つもありません。
何となく恨みや憎しみを共有して良いことをした気持ちになっているのが問題です。未来がより豊かになって行くように今という時間を使うことが、人生を本当の意味で豊かにしていくことに繋がるのです。
私たちはつい今すぐ役に立つもの。すぐ効果のあるものばかりを追い求め、一見無用なもの、ムダに見えるものは切り捨ててしまう傾向にあります。
でも無用やムダの積み重ねでしか生まれない素晴らしいものも、世の中にはたくさんあります。
どんなものでも自分の頭で正しいストーリーが描け、それを素敵だと思えば、その気持ちに正直になってもいいのです。ここまでお話ししてきたストーリーをきちんと描くというのは、この「余白」すらも含んだお金の使い方の提案です。
他人にとって無駄でも、あなたのストーリーにきちんと描かれているなら、切り捨ててはいけません。あなたの人生はあなただけのものです。自分のストーリーや生き方を丁寧に考えていくことで、豊かな人生は作り上げられていくのです。
これからの人生では、仕事や恋愛、結婚、子育て、病気や介護などで大きな決断を迫られることもあるかもしれません。その時にもストーリーの考え方は応用できます。あなたの人生はライフイベントを迎える度に豊かになっていくはずです。
そして、その先には他の誰に押しつけられたのではない。あなた自身の幸せが待っているのです。
※Bibroの要約コンテンツは全て出版社の許諾を受けた上で掲載をしております。