時間とお金には共通点がたくさんある。ともに測定可能で希少。どちらも私たちにとって最も貴重なものと、たいていの人が言うだろう。誰もが時間とお金をもっとほしがり、一生懸命働いて手に入れようとする。
時間とお金はこれほど共通点をもちながら、二者一択であり、働いているかぎり、その状態が続きそうに見える。両方とも望むだけ手に入れるのは難しい。私たちはたいてい妥協し、どちらかを選ぶ。お金があれば時間がない、時間があればお金がない、という古い格言は正しいように思える。
私も含め、ほとんどの人が、時間をお金ほど大切にしそこなう。お金ばかりに目を向けているから、ストレスと不幸と孤独感が蔓延し、多くの社会がそれに手を焼いているのだ。研究者はこの現象をひとまとめにして、「タイム・プア(時間的に貧乏)」と呼ぶ。
どこの国でもタイム・プアは空前のレベルに達している。あらゆる社会に影響を与え、すべての経済階層に及ぶ。
私たち研究者が積み上げたデータからは、タイム・プアと惨めさとの間には相関があることがわかっている。
タイム・プアな人のほうが、幸福感が弱く、生産性が低く、ストレスが多い。運動することが少なく、脂肪の多い食品を摂取し、心血管疾患になりやすい。
タイム・プアな社会も、高いつけを払わされる。タイム・プアのストレスのせいで、アメリカの医療制度は1900億ドルもの出費を強いられており、これは毎年の全医療支出の5%から8%に相当する。不幸せな従業員は生産性が落ち、それを金額に換算すると毎年4500億ドルから5500億ドルに相当する。
なぜ私たちはタイム・プアになっているのか? 私たちのせいではない。私たちの文化が、時間のもつ本来の価値を抑え込んでしまったのだ。
こうした原因が生み出すものを、私は「タイム・トラップ(時間の罠)」と呼ぶ。この罠のせいで、私たちのほとんどが、慢性的にタイム・プアのように感じている。
タイム・スマートになる第一歩は、タイム・トラップを理解し、自分の生活の中で見つけ出すことだ。
テクノロジーのおかげで時間が節約できるけれど、時間が奪われもする。これを「自律性のパラドックス」と呼ぶ。
このような状況では、認知機能に負荷がかかり、余暇が寸断されて、ストレスを発散したり、幸福感を得たりするような活動に没頭できない。非生産的なマルチタスキングに使われて失われてしまう、数分あるいは秒単位の時間の断片も、積もり積もれば思いがけないほど有害になる。
「お金では幸せは買えない」ということわざは、誰もが聞いたことがあるだろうし、経験的に言っても、それは正しい。お金は悲しさから守ってくれるけれど、喜びは買えないことをさまざまな研究が示している。
富が増すにつれて、タイム・プアだという感覚も強まる。問題は、よりタイム・リッチになるには金銭的により豊かになる必要があると誤って信じ込んでいる点にある。私たちはどういうわけか、一生懸命働いてもっとお金を稼げば、あとでもっと余暇が手に入るだろうと考える。これは間違った解決策だ。
多くの人はタイム・リッチになるうえでは非生産的なかたちで自分のお金を守ろうとする。純粋に金銭的な観点から最高の取引と最低の価値を探し求めると、タイム・プアで不幸せな状態を招くだけだ。
自分が「より安い」決定を下している瞬間を見極めれば、自分の生活の中のタイム・トラップに気づくことができる。
仕事をアイデンティティの中心に据え、人生の目標にするという、「ワーキズム」と呼ばれる考え方は盛んになりつつある。
私たちは仕事を重視するので、今では仕事で多忙であることがステータスになっている。その多忙さを、名誉の印として、甘んじて受け入れている。そして、自分が最も長時間働く従業員だと見なされたがる。
仮に完璧に平等な社会に暮らしていたとしても、私たちは依然として時間のストレスを自ら生み出すことだろう。人間は手持無沙汰になるようにはできていないからだ。研究者はこれを「手持無沙汰嫌悪」と呼ぶ。
手持無沙汰は価値ある余暇の形態で、さらにタイム・リッチになるのを助けられることがわかっている。瞑想、祈り、その他のかたちのもののどれであれ、マインドフルネスは、手持無沙汰を効果的に活用する方法だ。脳を解放することから得られる身体的・精神的恩恵は、脳を絶え間なく働かせ続けることで生まれるストレスよりも、はるかに大きな価値がある。
私たちのほとんどは、自分の未来の時間に対して楽観的過ぎる。
今、目が回るほど忙しいのならば、先の約束をするのはまずい。人間の頭は、この重要な点を忘れがちで、未来の方が今より時間があると、誤って私たちに思い込ませてばかりいる。
今よりずっとタイム・リッチになるためには、プランを立てることも必要だ。
自分の価値観がお金優先か時間優先かを知ること。そしてたとえどの位置からスタートしようと、時間優先側に最低でも少しばかり移るべきであることを、私が何年もかけて集めたデータが示している。しだいにタイム・リッチで幸せになる人はみな、まさにそうしたのだ。
タイム・リッチになる道を進み始めるためには、基準として、自分が時間の使い方をどう決めているのかを理解する必要がある。自分がどう時間を使うかをくわしく記録するという方法が有力だ。
自分の活動を記録し終えたら、1つひとつについてじっくりと考えてみよう。ストレスがかかり、不幸せに感じる活動については、それに費やす時間を減らせないか自問してほしい。仕事や運動のように、抜け出せたり抜け出すべきではなかったりする活動については、もっと愉快なものにしたり、それほど張り詰めたものでなくしたりできないか、検討するといい。
タイム・リッチになるための、いちばん手軽で明白な道は、喜びをもたらしてくれる活動に費やす時間を増やし、惨めな気分になるような活動の時間は減らすような、意図的な選択をすることだ。
タイム・プアになるような望ましくない経験を、もっと直接的に減らす方法がある。それは、お金を払ってそうした経験をなくすことだ。時間への投資がいい。
外注をするだけの価値があるかどうかを判断するには、自分にとって最も望ましくなく非生産的な経験の一部を外注するのにかかるコストよりも、自分の時間の方が価値があるかどうかを自問するといい。するのが楽しくない活動のいちばん嫌いな部分を変えるために投資するといい。
私たちは、時間についてどう感じるかを変えることもできる。
ある調査では、次の週末を「バカンス」として扱うように指示しただけで、週末の捉え方が変わり、人々は自由時間を楽しむ度合いが増して、気分が良くなった。逆に、過去を思い返したり、未来を予想したりすると、時間に追われているような気になる。
私たちは現在に注意を集中させることで、目の前に存在している楽しさに敏感になり、タイム・リッチになれる。
タイム・リッチなマインドセットを定着させるためには、次の3つのステップを踏む。
(1)時間は少なくともお金とおなじくらい重要であることを自分に納得させる
(2)大切な決定を下す場面になったら、自分の価値観を思い出す
(3)何日、何週、何カ月、何年にもわたって以前より多くの時間を手に入れられるような、周到で戦略的な決定を下す
あなたはスマホでゲームをしたりして、どれだけの時間を過ごしているだろうか?それは暇つぶしをしているうちに癖になった行動だ。
私たちの誰もが、そうした癖をもっている。あまり考えることもなく、ついついやってしまう行動だ。悪癖を打ち負かす方法の1つは、端的に理由を問うことだ。なぜ私はこれをやっているのか?と。自分と、自分の時間について、とことん考えてほしい。
人は時間を見つけてそれに投資するように努力し始めると、つまらない時間を有意義な時間で置き換えることに熱を上げ過ぎて、タイム・リッチな活動でスケジュールを埋め尽くしてしまいがちだ。
これを防ぐ方法の1つは、ゆとり時間を許すこと。ゆとり時間というのは、約束と約束の間に残された時間の余裕で、スケジュールのずれの調整時間や休憩時間として使うことができる。
ゆとり時間があれば予定をすべて必ず実行するというストレスがなくなり、おおらかな気分になれる。おおらかさは大切だ。なぜなら、効率を求め過ぎると、望ましくない結果につながるからだ。
どれだけのゆとり時間を予定すればいいか迷っていたら、自分のカレンダー・マインドセットを活用して決めることができる。
カレンダー・マインドセットには2種類ある。
クロック・タイム型人間は1日の時間、つまり時計によって定められたスケジュールを使う。彼らは決まりきった手順を守り、仕事や余暇のために、時間に基づく目標を設定する可能性が高い。
それに対して、イベント・タイム型人間は、事象の流れに任せる。予定した時間とは関係なく、15分で終わることもあれば、90分続くこともある。
どちらか一方の取り組み方が優るということはなく、自分のマインドセットに合っているほうが良いシステムなのだ。自分の型を知り、どう取り組むかのプランを立てよう。
意図をもつというのは、時間をどう使っているかを自分に考えさせ、望ましいかたちで時間を使うように仕向けることだ。
意図している活動を週のはじめに書き出し、終わったものには週末にチェックマークをつけるのも効果がある。終えられなかったものがあれば、理由を書く。
なぜその目標を達成できていないのか、じっくり考えよう。自分の時間のトラッキングと意図の実行をやり通せなかったら、行動面の戦略を使って自分にやる気を起こさせ、成し遂げるというのが、次の望ましいステップとなる。
もしあなたの時間管理体制がうまくいっているのなら、自分にご褒美を与えるプランを立てよう。
望ましい行動でご褒美をもらうよりもなおさら強力な動機づけとなるのは、望ましくない行動をとるとご褒美を失うことだ。たとえわずかなものであっても、勝ち取るよりも失うときのほうが、私たちの行動に与える影響が大きい。
タイム・リッチになるようなデフォルト設定をすれば、タイム・リッチになるための体制をもっと積極的なものにできる。つまり、ある決定を下すのはタイム・リッチになるのをやめる選択をすることを意味する。
テクノロジーのデフォルト状態をオフに設定する。通知をオフにさせてくれないアプリがあったら、アンインストールしよう。自分のデバイスをサイレントモードにし、3時間ごと、あるいは自分が守れる間隔でだけチェックするように努める。
あなた個人のデフォルト状態をコントロールする。どういう活動を自動的に選択しないようにするかについて、ルールを決めておく。プランを立てていなかった活動、特に、職場での副次的なプロジェクトのように、誰かほかの人の利益(あるいは、はっきりとしない利益)のために自分の時間を差し出すことが求められる活動は、断ることをデフォルト設定にしよう。
重要な締め切りがいくつもあって忙しい週には、受信トレイを空にしていたりする。忙しかったり時間のストレスを感じていたりすると、物事を今すぐ片づけなくてはいけないようなプレッシャーもいつも以上に感じてしまう。
そんなときには、取り組むことにした用件の重要性をしっかり考える能力が低下しているものだ。その結果、その用件が重要かどうかではなく、緊急かどうかを考えるのがデフォルト設定になっている。それを、「単純緊急性効果」という。
単純緊急性効果を免れるための対応策の1つは、自分の活動を書き込むことだ。あとから振り返ると、たんに緊急なだけだった用件や重要ではなかった用件は、特に注意して、将来、また直面したときには避けるようにしよう。
余暇を前より多く組み込むだけでは十分ではない。せっかくつくり出した余暇を楽しめるように、必ず全力を尽くすこともしなくてはいけない。
スケジュールの中の活動を楽しむためには、お金その他の測定基準から切り離してほしい。この投資はどれほど効率的だったかなどを考えるのをやめ、今この瞬間に意識を向けよう。
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