世界的に見て、日本の給料水準はどのくらいの位置にあるのか確認しておきましょう。OECD(経済協力開発機構)が発表した2021年の加盟国の平均賃金において、日本の順位は38カ国中24位です。 主要先進国の中では、日本より平均賃金が低いのはスペインだけになってしまいました。
アメリカの平均賃金は、日本の1.82倍。ドイツは日本より労働時間がかなり短いにもかかわらず、1.38倍です。 日本の平均賃金は1990年代からほとんど上がっていません。 平均賃金が低迷しているのには、2つの統計上のマジックの影響があります。
1つ目は、日本の異常ともいえるほど低い女性の給料水準です。
第二次安倍政権以来、日本では生産年齢人口が減少しているにもかかわらず、就業者の数は大きく上昇しました。 ただし、増えた属性は主に女性と高齢者と学生です。
日本では特に女性の給料が異常ともいえるほど低い水準に抑え込まれてしまっています。先進国と大きくかけ離れた女性の低い給料水準が、日本の平均賃金を引き下げ低迷する理由のひとつであることは明らかです。
2つ目は、労働生産性が低いため、日本の給料が相対的に低くなっていることです。労働生産性とは、ひとりひとりの労働者が創出する付加価値をいいます。 2021年の労働生産性のランキングで日本は世界36位でギリシャより下です。
推移を確認すると日本の停滞度合いがさらに一目瞭然となります。1990年を100とした場合、アメリカは2021年には160まで上がっているのに対して、日本は117しか上がっていません。日本は労働生産性がずっと上がらないことで給料水準が停滞し、収入も一向に増えないのです。
日本では、さらに悪いことに、税金と社会保障費の負担が増え、手取り収入は1990年と比べ8.1%も減っています。負担が増大した原因は、高齢者が増えているにもかかわらず、納税者が減ったためです。 2060年には高齢者の数がほとんど減らないのに、税金という形で高齢者を支える人の数は今よりさらに約3000万人も激減する見込みです。
人口減少の影響は、他にも次のようなものがあります。
消費者が減る
消費者の減少は、最も大きな悪影響です。供給を維持することができても、それを買う人間が減り消費が落ち込めば、経済が停滞します。
高齢化で低所得・低消費者が増える
75歳以上は支出が最も少ない層です。その層が総人口の26.9%を占めるので、経済に対する打撃は極めて大きくなります。
高齢化によって需要ミスマッチが生じる
高齢者が増えるほど、医療に使われるお金が増えます。一方で、商品やサービスの消費は控えられるようになります。特に飲食や宿泊、美容室など人の多さを基盤にビジネスを行っている業界は衰退していきます。
経済の中枢が減り、エネルギーが低下する
現在の日本の生産年齢人口比率は59.2%で、主要先進国の中で最低水準です。生産年齢人口比率の低下は、大量の失業者が生まれているのと同じことで、社会保障負担が重くなります。
投資ができなくなる
高齢者を支えるための社会保障費を削る政策を打つのは難しいので、政府はそれ以外の支出を抑えて帳尻を合わせようとします。実際、公共工事費は一時に比べてかなり減っています。
インフラ維持の負担が増加する
人口が減ると、一人当たりにかかるインフラの固定費は間違いなく増えます。
社会の劇的な変化には、個々の心情、生活、仕事のやり方を劇的に変化させて迎え撃つべきです。 その対応策こそ、本書のテーマである給料交渉です。収入を上げるためにあなたが何を心がけ、何をするべきなのか。次に選択肢を挙げます。
海外に移住する
人口減少と高齢化の問題が襲い掛かってくる日本から逃げるのが最初の選択肢です。人口減少の問題がなく給与水準が日本より高い国に移住できれば、問題は容易に解決できます。
とはいえ、語学の問題や生活習慣、文化の違いなどがあって、踏み切れる人は限られるでしょう。
給料交渉をする
日本以外の先進国では、自分がもらう給料を会社と交渉するのはごく当たり前です。日本では交渉する人が3割未満なのに対し、ほかの先進国では7割以上にのぼります。
転職する
給料交渉ができないなら、適切な給料を払ってもらえる会社へ転職すべきです。一見単純なことのように思えるかもしれませんが、原点に戻って真面目に考えると実は奥深いことがわかります。
起業する
最後に残されている選択肢は、自分で会社を作ることです。リスクは小さくありませんが、国の支援も受けられます。既存の企業にない発想の会社を作って上手に経営すれば、今までにない付加価値を生み出すことも不可能ではありません。
賃上げを要求するならどの位を要求するべきなのでしょうか?
日本全体の人口動態に基づいて計算すると、年1.4%のベースアップが必要です。すなわち、2.8%の定期昇給と1.4%のベースアップを合わせた合計4.2%の給料アップが適切です。
経営者に直接賃上げを訴える人は、日本では少数派なのは事実でしょう。賃上げ要求がないことを良いことにこの30年間、多くの経営者が社員の給料を上げる努力を怠っています。
経営者を甘やかすのはやめて、せめて海外並みにプレッシャーをかけようというのが、私の言いたいことです。
従業員がどの程度の給料を希望しているかを明確にすれば、その希望に応えるため、どのような仕事をさせなくてはいけないか、経営者側も真剣に考えざるを得なくなります。
まずは、経営者の姿勢と経営方針をチェックし、勤め続けるのに値する会社かを確認すべきです。 労働者として皆さんが見限るべき社長の特徴を3つ解説していきます。
売り上げを増やそうとしない
給料アップを希望すれば、経営者はあなたにも新たな努力をするよう要求してくるはずです。このように経営者が売上を伸ばすのに積極的なマインドを持ってくれればいいのですが、中には売り上げを増やすことに積極的ではない経営者もいます。
生産性を理解できていない
従業員を削減すれば労働生産性が上がると思っている人もいます。こういう考えの経営者の下で働くことはおすすめできません。コストを削減しても、利益は増えますが生産性は上がりません。付加価値は増えていないのですぐに限界を迎えます。
単価を下げようとする
すでに普及している商品の場合、値下げをしてさらに売り上げを増やす薄利多売戦略を取ると、業界内で過当競争が始まり悪循環に陥ります。値下げ戦略は生き残るためだけの戦略なので、明るい未来を切り開きはしません。
見限った方が良い経営者の特徴を上げることで、ついて行くべき経営者の姿も見えてきます。
イノベーションと需要発掘を重視する
変動する人口動態に適切に対応し、新たな需要発掘ができることです。売り上げを増やすためにはイノベーションを起こし、今より高い単価をとれる商品を開発するのが正しい選択になります。
10年先から今の戦略を立案する
今勤めている会社が、どういう客層をメイン顧客としているのかをしっかりと把握する必要があります。人口構成が変わり、取り巻く環境が様変わりしてしまうのであれば、違う分野に打って出るか、これまでとは異なる商品を提供するなどの工夫が不可欠になります。
輸出を重視する
輸出や外国人を対象としたビジネスも検討するべきです。 訪日外国人観光客を対象としたインバウンド戦略なども同じです。固定観念にとらわれずに新鮮な気持ちでビジネス環境を見直すことが、新たな需要を発掘するためには極めて重要です。
正しい調査をする
ビジネス成功のカギはエビデンスに基づいて的確なビジネスモデルを構築し、イノベーションを起こすことです。潜在需要を見極めた上で、その需要を顕在化させるにはどうすればいいのか、そのために発展性のある調査が必要です。
高齢者マーケットを攻める
日本では多くの富や資産が高齢者に集中しています。顧客として非常に大きなポテンシャルがある層です。もっと積極的に高齢者を分析し、需要を発掘して行けば、まだ伸びしろがあるのは間違いありません。
「よいものをより安く提供するのが善である」という思い込みは、日本経済の低迷を打破する上で最も危険なものです。良いものをより安く提供できるのは安い労働力のためです。
日本の最低賃金はOECDの中で22位。ハンガリーより下のとんでもない低水準です。そんな最低賃金で働いている500万人以上の日本人の手取り年収はどれだけ一生懸命働いても200万円には達しません。しかし、彼らは本当に丁寧に働いています。
日本人は勤勉なので、付加価値が低く低い給料しかもらえない仕事であっても、文句を言わずにこなします。その結果、その仕事が職業として成立してしまいます。経営者としては、仕事をこなしてくれるので、付加価値を高めるための設備投資を行う動機が生まれません。その結果、多くの人が低い給料しかもらえないまま放置されてしまうのです。
この経済モデルは労働者の忍耐によってのみ成立しています。
良いものをより安く提供する企業の給料が上がることはありえません。
会社で働き続けるなら、より付加価値の高い商品を開発するよう経営者に働きかけるべきです。それが難しいなら、より価値の高い商品を作っている会社に転職するべきです。
給料の引き上げは、労働生産性の向上によってのみ決まります。そして、労働生産性はイノベーションによってのみ上がります。
イノベーションとは、サービスや組織、ビジネスモデルなどの、新たな考え方や新技術によって、今までにない全く新しい価値創造を目指すことです。
生産性と給料が短期間で急激に伸びた国では、イノベーションを日常的に繰り返してきました。その結果、毎年日本を1%程度上回る成長を遂げ、生産性と給料が大きく伸びたのです。
イノベーションを起こすための方法として、イギリスの政府の依頼によってまとめられた論文があります。生産性が上がる順に5つ紹介します。
entrepreneurship(アントレプレナーシップ)
「新しい企業を設立する起業家精神」と訳されることが多いのですが、「新しいことに挑戦すること全般」を指します。イノベーションは新しいアイディアを包括した概念で、それを実行する人をアントレプレナーといいます。
設備投資
機械を導入するにせよ、ソフトを開発したりするにせよ、イノベーションの実現には何らかの投資が不可欠です。
人材投資
設備投資を行うには、社員の教育や研修も不可欠となります。
技術革新
技術革新が4番目ということに対して、違和感を覚える人が少なくないのではないでしょうか?
残念ながら技術力という潜在能力が高くても、それが使われなければ無いのと同じです。生産性は、技術をどこまで広く普及させ活用できるかにかかっています。
競争
適度な競争は必要だが、過当競争は生産性を下げると結論付けられています。
就職や転職の場合に、どのような会社を選ぶべきか4つの基準を示します。
業界の生産性
業界によっては、生産性に20倍以上の違いがあります。生産性の高い業界の会社ほど、高い給料がもらえるチャンスは大きくなります。まずは生産性の高い業界に身を寄せておいたほうが、高い給料を手にできる可能性は高くなると言えます。
会社の規模
経済学には「規模の経済」という概念が存在します。会社の規模が大きいほど生産性が高くなり、その会社で働く人の給料が高くなる傾向が明らかにされています。ただし、単純に現在の規模を把握するだけではなく、過去と比べ規模が拡大しているか、縮小しているかも確認してください。
規模の成長性
私は「企業のダイナミズム」に注目し、従業員数と売上の成長性がポイントだと考えています。重要なのは、単純な規模の大小ではなく、適切なタイミングで適切な規模へ成長することです。
労働分配率
労働分配率とは、創出した付加価値のうち何割を給料が占めているかを示す比率です。 労働分配率が最も高いのは、60.8%の中堅企業です。
役員への労働分配率が高い企業をライフスタイル企業と言います。
ライフスタイル企業は、創業者である社長の生活スタイルを守るためだけの目的で作られた会社です。社長自身が好き勝手にやりたい放題するために作られる会社なので、イノベーションに消極的です。
世界的な統計データを見ると、新しく生まれる会社の約95%がライフスタイル企業だと言われています。日本ではベンチャー企業を礼賛する傾向がありますが、この風潮は私に言わせれば危険です。
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