モノの価値を金額で表したものを価格と言いますが、この価格の決まり方をしっかりと理解することが、お金の勉強をするうえで非常に重要だと考えます。
たとえば、あなたが砂漠で迷子になり、脱水症状で今にも倒れそうだとします。そこに商人がやってきて、500mlのペットボトルの水を売ろうとしたら、1本1,000円でも買いますか?
私は買うと思いますし、読者の方の多くも買うのではないでしょうか。しかし、普段の生活の中で500mlのペットボトルの水を1本1,000円で買うことはまずないでしょう。
それが需要と供給ということなのです。価格というのは、供給量がどれぐらいあって、それを欲しがる人、つまり需要がどれぐらいあるのか、という2つの関係が一致するところで決まるのです。ここで価格の説明を終えてしまえば、なんともシンプルなものなのですが、実は価格の決定要因には奥深いものがあります。
たとえば、同じコップでもキャラクターのプリントが1つあるかどうかで金額が変わることがあります。要はカッコよかったり、可愛かったりすると、それ自体も価値として認められるのです。このように、需要や供給は様々な要因で変化するのです。
インフレは「インフレーション」の略で物価が継続的に上昇する状態を意味します。デフレは「デフレーション」の略で物価が継続的に下落する状態を意味します。
インフレは「良いインフレ」と「悪いインフレ」に分類することができます。日本経済が成長し、多くの国民が欲しいものを買う。需要がどんどん旺盛になり、供給が追い付かなくなると物価が上昇します。これがいわゆる「良いインフレ」です。
一方で、別に景気も企業の業績も良いわけではなく、国民の賃金も上がっていないのに、原油や天然ガスなどエネルギー価格が高騰し、企業が価格転嫁をして物価が上昇するような状態は「悪いインフレ」と言えます。この場合は政府が減税をしたり、給付金を配ったりするなど、いわゆる財政政策によって家計の消費を下支えし続けないと本格的な不況に陥ることが懸念されます。
インフレになると、モノやサービスの値段が上がるわけですから、賃金がそれ以上の速度で上昇しないと困ってしまうのは理解できると思いますが、もう一つ困ることがあります。それは、お金の価値が下がってしまうことです。インフレになると現金や預金の価値は目減りしてしまいます。すると、金や不動産などの実物資産や、株式などに投資をしてインフレ対策を考える必要が出てきます。
個人的にはインフレよりもデフレの方が恐ろしい現象だと思います。たとえば景気が悪くなり、人々が節約を始めたとします。企業はモノが売れなくなるので、値下げをして売ろうとします。しかし、モノが売れなくなったからといって、タイミングよく原材料価格が下落するわけではありませんから、企業は利益率を維持するために人件費を削減します。人件費を削減するということは、消費者がもらうボーナスが少なくなったり、給料が上がらなくなったりすることを意味しますので、消費者はさらに節約をするようになります。そうすると、企業はさらにモノの価格を下げるため、人件費を下げていきます。
このようにして、一度デフレの状態に陥ると、どんどん悪い循環がつづいてしまいます。この循環をデフレスパイラルと言います。日本はバブル崩壊以降、デフレ経済に突入してしまいました。
国としてできることは主に2つあります。1つ目は財政政策。2つ目は金融政策で、これは主に中央銀行の仕事になります。
財政政策は主に2つの方法で景気に影響を与える政策と言えます。1つ目は公共事業によって、雇用を拡大したり、個人の所得を増加させたりして景気を良くするという方法です。
2つ目は所得税や法人税、消費税などの税金の税率を変化させたり、課税の制度を調整したりすることです。消費税率を引き上げれば消費は冷えていきますから、景気が悪くて家計が消費をしないのであれば、消費減税をすることで消費を促すことができます。一方、景気が過熱しすぎて、家計が過剰なほど消費しているようなときは消費増税をすれば、消費を意図的に抑え込むことが可能になります。
次に、金融政策は政府ではなく中央銀行が行う政策になります。日本では日本銀行が中央銀行にあたります。
日本銀行が通貨及び金融の調節を行う理念として「物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資すること」を掲げています。金融政策によって物価を安定させることを通じて、国内経済を程良い状態にするということです。
金融政策にはいくつか種類がありますが、最も分かりやすいのは金融を操作することです。物価の上昇速度が賃金の上昇速度をはるかに上回ってしまえば、家計は苦しくなっていきますから、金利を引き上げて景気を意図的に冷まして行きます。
金利が下がれば融資を受けて投資をする企業が増えて、雇用も生産も発生する。また、ローンを組んで住宅や自動車を購入する人の数も増えて、結果として景気も良くなっていく。理屈としてはこれでまったく問題ないですよね。
ただ、現実には金利を下げたら景気が良くなるというのは机上の空論で、実際の社会では違うのではないか、というようなモノの見方ができるようになってくると、経済を考える際の思考能力を高めてくれると思います。
資産運用をすると決めた場合、まず重要なことは長期の観点で投資を考えるということです。ここでいう長期とは20年、30年を指します。
株価も為替レートも常に上下に波を打ちながら推移していきます。あまりにも市場や相場の変動を気にしてしまうと、値動きに一喜一憂することになり、長期で資産運用を続けることはできません。
投資の世界で重要とされているのは「リスクを低減する」ことです。投資対象を「分散」することで、投資資金全体のリスクを低減できるのです。一社の株式に投資するのではなく、複数社の株式に投資をするという分散もありますし、株式と債権、不動産、金など資産の種類を分散することも重要です。また、国や地域の分散や為替の分散をすることで、為替変動の影響をそれほど受けない状況を作り出すことも可能になります。
お勧めなのが「分散」の応用技です。毎月定額を一定のタイミングで機械的に投資していくのです。このような投資手法を「積立投資」といいます。
毎月定額で投資することによって、投資対象の価格が高い時は少ない量を投資することになり、価格が低い時は多い量を投資することになります。その結果、投資単価を平均したときに一括投資するよりもタイミングのリスクを低減することが可能になるのです。
株式投資で分散投資をするためには、それなりにまとまった金額が必要になります。日本では原則として100株からしか株式を買えないからです。
その点、投資信託は1,000円で何百、何千という株式に分散投資が可能です。その中に、日経平均やNYダウのような株式指数に連動することを目的として運用されるインデックスファンド(インデックス投信)があります。インデックスファンドは保有期間中にかかる手数料(信託報酬)が非常に低く設定されており、しかも多くの証券会社では買付手数料もかからないため、個人投資家が長期にわたって資産運用をする際に、非常に力強いパートナーになってくれます。
高校の家庭科の授業の中で、2022年4月から金融商品の紹介を含む金融教育の内容を扱うことが決まりましたが、1つ懸念していることがあります。それは日本では「金融教育≒投資教育」となっていることです。日本の金融教育では軽視されていますが、私が重要だと考えるのは「お金の守り方」です。
お金は現代社会を生きるうえでは非常に重要です。ですから、みんな一生懸命働いてお金を稼ぎますし、多少のリスクを取ってでも運用して増やそうとするわけです。しかし、中には詐欺という形でラクして稼ごうとする輩もいるのです。
騙されて借金を抱えるだけなら、自分で働いて返せばおしまいですが、自分が詐欺をする側に回ってしまうと、詐欺罪で逮捕される可能性だってあります。金融リテラシーを身につけるのは、詐欺から身を守るためでもあるのです。
詐欺師の手口も把握すれば、詐欺被害にあうリスクを限りなくゼロに近づけることが可能でしょう。まず、どの営業も、扱っている商品は違えど、共通するのは非常においしい話を持ってくるということです。
私が会った投資信託の販売員の場合は、「元本保証」と「年間30%の利回りは堅い」などと、普通に考えたらありえない条件を兼ね備えた商品を提案してきました。未公開株企業の場合は数年で資産が25倍になることが確約されているという株への投資を勧めてきました。
どのような方にとっても上記のようなおいしい話は明らかに怪しいと気付けるはずです。それぐらい、あり得ない好条件を示してくるのです。
実際に詐欺被害にあった人たちに質問してみると、ほとんどの人が「そんなおいしい話あるはずない」と思ったそうです。それにもかかわらず被害にあった理由は何でしょうか? それは、詐欺師が見ず知らずの第三者ではなく、既に仕事でつき合いがあったり、職場の同僚や学生時代の先輩だったりしたというのです。既に関係がある人から提案されたら、「まさか、この人は自分を騙すことはないだろう」という潜在意識が最初に来るため、見極めがあまくなってしまうのでしょう。
詐欺師たちの特徴として、なんとしてでも最終的には契約に結びつけたいがために、どうしても強い言葉を使いがちになります。その最もたる例が「絶対に」という修飾語です。金融商品などを薦めてくる際に「絶対に」という言葉を多用する人は絶対に詐欺師なので注意しましょう。
現在の社会の構造上、誰もがお金と無縁では生きていけません。私はそこまでお金を重要視はしていないものの、お金はあったほうがいいとは考えています。お金があった方が選択肢は増えますし、家族など自分の大事な人たちにもより多くの選択肢を持たせることもできます。
そのうえで私は、お金に向き合う態度は「普通」が一番だと思っています。要は極端な価値観は持たないようにしましょう、ということです。
お金に対する向き合い方を考えるにあたって、経済学で習う「限界効用逓減の法則」の話を共有したいと思います。「限界効用」という言葉を経済学的に説明すれば消費財(モノやサービス)を1単位で追加して消費することで得られる効用の増加分ということになります。意味が分からないと思うので、ざっくりと表現するのであれば、ジュースとかビールを1杯飲んだときに得られる満足感だと考えましょう。そして「逓減」は次第に減ること、徐々に少なくなっていくことを意味します。
簡単な例を挙げてみます。食後のビールや、運動をした後のスポーツ飲料って美味しいですよね。1杯飲み終えた後、2杯目もおかわりしちゃいますよね。そこで考えてほしいのです。1杯目は最高に美味しかったかもしれませんが、2杯目は1杯目ほどの感動はなかったと思いますし、飲み続けるほどに感動は薄れていくはずです。これが「限界効用逓減の法則」というものです。
お金も同じような考えでいいと思うのです。つまり、お金はあるに越したことはないのですが、かといって、お金がありすぎたらありがたみも薄れていきますよね、ということです。昔から「足るを知る」という言葉がある通り、これぐらいあれば十分という尺度を自分の中に持つことで、お金に左右される人生から脱却できます。それに、過度にお金に対して嫌悪感を抱くこともなくなるのです。
本書を通して得た知識を基にマクロの観点から世の中の流れを把握したうえで、「これからの日本経済はこうなる」「ただ、政府がこういう政策を打てばこうなる」など、いくつかのシナリオを自分で立ててみてください。そうやって自分のお金の動きや状態を見える化し、自己投資と資産運用によって収入と資産を増やしてほしいのです。また、「お金がすべてではない」という当然だけれど重要なことを理解し、お金に人生を壊されてしまわないように気をつけてほしいと思います。
お金と向き合う必要性や、お金とのつき合い方を正確に身につけて、人生をより充実したものにしてほしいーーこれが私が本書を書いた唯一の目的なのです。
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