相続は誰しもが経験する身近な出来事です。相続争いが起きやすい家族の特徴と、相続争いが起きないために事前に取っておくべき対処法について紹介します。
相続争いが起きやすい特徴の一つは、意外にも亡くなった人の財産が少ない家族です。
民法では亡くなった人の財産を相続する権利のある人を「法定相続人」と定めており、法定相続人がどれだけの財産を相続するかの割合を「法定相続分」といいます。必ずしも法定相続分どおりに分けなくてもよいのですが、法定相続分は相続税や遺留分の計算や、相続人同士の話し合いで遺産分割がまとまらないときに法律上の目安となります。
主な財産が自宅と少額の預金の家族は、例えば、親と同居していた長男が自宅を相続すると、残りの兄弟姉妹は民法で定められた法定相続分をもらうことができません。
このような家族は、親が生きている間に、家族全員で話し合いをし、必要であれば、親は遺言書を作成しておくことが重要です。
財産のほとんどが不動産で、生前に一切の相続対策をしていない家族は、相続争いが起こる可能性が高いです。
このような家族は、可能なら親の生前にいくつかの不動産を売却し、ある程度の現金を用意しておくと、家族が相続財産を巡って争うことを回避できるでしょう。
特定の人への援助とは、大学の授業料や結婚資金、自宅の購入資金の贈与などがあります。
例えば、長男は私立大の医学部で、次男は専門学校に通ったとすると、兄弟間で不平等が生まれ、争いに発展することがあります。
このような争いを回避するためには、できるだけ兄弟間で不平等が生まれないようにしておきましょう。
特定の人物だけが亡くなった人の介護をしていた家族も、相続争いが発生しやすいです。
現在の法律において、中等度以上の認知症を患うと、奇跡的に症状が完治・軽減しない限り判断能力がないとされ、一切の相続対策(法律行為)を行うことができません。
このような家族の解決法は、親が認知症を患っていないのであれば、遺言書を作成しましょう。
もし、親が認知症を患い、遺言書の作成ができない場合は、「寄与分」という法制度があります。これは「亡くなった人の生前に、相続人が療養看護その他の方法によって、亡くなった人の財産の維持や増加について特別の寄与をした場合には、その分、他の相続人に対し多くの財産を相続できる」というものです。
特定の人物が寄与分を相続人に主張し、それで納得を得られれば、介護した分を寄与分制度に定められた範囲でもらうことができます。
相続争いを回避するために遺言書を作成するのは有効な手段ですが、内容が極端に偏っていると相続争いのもとになることがあります。
遺言書は決して万能ではありません。作成者の偏った考え方や、過去の援助額を無視した遺言書を残すと、遺言書がない場合よりも相続人同士が揉める原因になります。
親が遺言書を作成するなら、自分の考えを遺言書にまとめた後、子どもの前で読み聞かせることをお勧めします。このとき、子どもの配偶者も同席させ、冷静な目で子どもの意見や反応を確かめ、改めて遺言書を作り直すと、相続争いが少なくなるでしょう。
昨今は離婚、再婚をする人は珍しくなく、相続面では亡くなった人の本妻と前妻、その子供たちが対立するケースが目立ちます。
現在、再婚をし、かつ前妻の子どもがいるという人は、生前から双方の家族たちと話し合うことが重要です。そのうえで積極的に贈与をしたり、遺言書を作成するなど、将来の争いのリスクを少しでも減らしてください。
親が亡くなる間際になってから、相続に慌てる家族も多いです。親が高齢になっても実行できる節税対策を紹介します。
高齢者が贈与を行う対象は、法定相続人である子どもより、法定相続人でない孫や子どもの配偶者に行うほうが節税になります。
なぜなら、孫や子どもの配偶者は「3年以内(7年以内)の贈与加算」の持ち戻し対象とはならないので、亡くなる間際に贈与をしても110万円までなら非課税です。
子どもや孫が自宅の購入やリフォーム、増築のために使うお金を、両親や祖父母からもらう場合、省エネ等住宅なら最高で1000万円、その他の住宅なら最高で500万円までの贈与が非課税となります。
こちらも「3年以内(7年以内)の贈与加算」の対象にはなりません。
両親や祖父母から30歳未満の子どもや孫に教育資金の贈与を行う場合、金融機関を通じて「教育資金非課税申告書」を税務署に提出すれば、最高で1500万円まで非課税になるのが「教育資金の一括贈与」です。
ただし、この制度は贈与をする人と受け取る人の年齢により、使うと損をする家族もいるので注意が必要です。
親の死亡後に下りる生命保険金(死亡保険金)は、「500万円×法定相続人の数」までは、相続した金額が非課税になります。
また、生命保険金はお金を渡したい相続人を受取人として名指しで渡せるのもメリットです。
お墓や仏壇、お鈴は相続税の非課税財産として認められています。
つまり、お墓や仏壇の購入のタイミングは、親の死亡後に買うよりも、親が生前に自身のお金で買ったほうが税金的にはお得です。
相続税の基礎控除額は、「3000万円+600万円×法定相続人の数」です。
相続人が増えれば基礎控除額が増えるだけではなく、相続税の計算過程における按分割合によって、家族全体で支払う相続税額が大きく減少します。
養子候補は孫や子どもの配偶者です。養子は実子がいる人は1人、実子がいない人は2人までが相続人になれます。
生前に事業収入のある人は、赤十字やユニセフ、日ごろお世話になっている老人ホームなど、社会福祉法人を含めた特定公益増進法人などに寄附を行うと、事業収入にかかる所得税から一定金額を寄付金控除(所得控除)として計上できます。
自分の財産を意に沿った形で相続人に渡すことができる「遺言」。遺言でできることを7つ紹介します。
遺言を活用することで、任意の相手に対し自分の裁量で遺産の譲り渡しを行うことができます。
特定の相続人に対し、多めに財産を渡したいと思うなら、遺言書を作成しましょう。
遺言執行者とは、自分の死後「遺言に書かれている内容を執行する権限を持つ人」です。適任は弁護士や司法書士、信頼できる第三者などです。
遺言書に「遺言執行者」として記述しておくことで、相続発生後、遺言執行者が遺言の内容を執行してくれます。
婚姻していない相手との間に子どもがいる場合、遺言書に「遺言者◯◯◯◯と△△△△との間に生まれた☆☆☆☆を自分の子どもとして認知する」と記述し、遺言執行者を指定することで、その子どもの認知(遺言認知)ができ、子どもは正式な相続人として権利を得ることができます。
親が子どもから暴力や暴言などを受けているなどがあれば、遺言に「長男◯◯を相続人から廃除する」と記述し、その具体的な理由も述べ、遺言執行者を指定することで、長男を相続人から廃除することができます(遺言執行者は家庭裁判所に申し立てをする)。
離婚をして未成年の子どもの親権者が自分一人となった場合、自分に万が一のことがあれば、子どもの生活や法的手続きに支障が出ることになります。
その予防策として、遺言で「未成年の子どもの後見人」を指定することができます。適任は両親や兄弟姉妹です。
これまでお世話になった特定の団体、自分が応援したい公益法人などへ寄附という形で財産を渡すことができます(遺贈寄付)。
特別受益とは、故人からの贈与や遺言による贈与(遺贈)のことです。
住宅取得等の資金の贈与分など「過去に行った贈与に関して持ち戻し対象としなくてよい」という旨の遺言を残せば、その分は遺産分割協議の際に免除することができます。
「遺言」とは故人の最終的な意思表示を記した書類で、自分の財産を意に沿った形で相続人に渡すことができます。
しかし、遺言は万能ではありません。内容の偏った“間違った遺言書”なら、作らないほうがよいと思います。なぜなら、遺言書と相続人の気持ちのズレや、認識の違いが相続争いの原因となっているからです。遺言者が残された相続人一人ひとりの気持ちに寄り添った、偏りのない内容の遺言書を作成すれば、遺言書を発端とした家族間の相続争いは起こらないのです。
相続争いを起こさせない遺言の第一の心得は、遺言書の原案作りを自分一人でやらないことです。不平等な財産分けの事態を起こさないためにも、遺言を作成する際には、遺言書に記載する財産の価額をしっかりと計算してくれる相続専門の税理士に財産目録を、遺言書の原案は弁護士や司法書士に作成してもらうのがベターです。
第二の心得は、遺言書原案の読み聞かせと、原案の修正を行うことです。
相続人たちへのヒアリングや読み聞かせを繰り返し、反応を確かめながら慎重に遺言書の原案を作成すれば、遺言書を発端とした相続争いの可能性を大幅に減らすことができるでしょう。
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