迷い犬のマネーが家にやって来て数か月経ち、キーラも12歳を迎えたころ、キーラの両親は不況によりお金に困っていました。
「なぜうちはお金に困っているのだろうか……」、そうした悩みを抱えていたある日、犬のマネーが人間の言葉でしゃべりかけてきました。
「君の考えていることはわかるよ。両親がお金に困っているせいで、君がずいぶん悲しい思いをしていることも。君が彼らとは同じような状況に陥らないように助けたいんだ。
君さえよければ、お金が君の人生でいかに幸せをもたらす力になるかを教えてあげるよ」
おどろくキーラを前に、マネーは続けました。
「明日までにまずお金があったら何をしたいか、願いごとを10個考えてきて」
キーラはお金についてなぜ考える必要があるのか、完全に納得できないものの、とりあえず願いごとのリストをつくってきました。
翌日、マネーとキーラは秘密の隠れ家に行き、キーラはマネーに願いごとのリストを見せました。マネーはキーラにその10個の中から「大切な願いごと三つ」に丸印をつけるように言います。
そこで、キーラは実現したい願い事を選びました。
マネーはとてもいい動機だね、きっとうまくいくよと答え、さらにこう告げます。
「たいていの人は、自分がほしいものは何なのか正確にはわかっていない。わかっているのはもっとほしいということだけ。ほしいものを手に入れるには何を望んでいるのか、きちんとわかっていなくちゃならないんだ」
マネーはこの願いごとリストを毎日眺めるようにキーラに言いました。そうすると、願いごとを実現させるために何をすればいいか、だんだんわかるというのです。
そんなことで本当に願いごとがかなうのか、不安を抱くキーラに対し、さらにマネーは3つのことを実行するように言いました。
(1)夢アルバムの用意
ほしいものの絵や写真を探してアルバムに貼ろう。願いごとを言葉で考えるのではなく、イメージで考えられるようにするのです。
(2)アルバムに貼った写真を眺めること
自分の願いがかなっている様子を想像しましょう。人生で何事かを成しとげた人はみな、まずそれを夢に描いています。目標を達成したらどうなるかを何度も心に描きましょう。
(3)夢貯金箱を作ること
自分の夢をふたに書いた貯金箱を用意しましょう。その夢のためにとっておけるだけのお金を入れていきます。
次の朝、夢貯金箱を見た母親に「今の貯金額ではアメリカに行くまでに50年かかるわね」と笑われ、キーラは大泣きしてしまいます。
どうしてもたくさんのお金がいる、しかし両親や親戚にもらえる額でもない。それならかせぐしかありませんが、少女に「かせぐ」ことなんてできるわけがありません。
そこで、マネーに相談します。
「お金をかせぐのに、いいアイデアがあるかどうかは重要じゃない、どれだけ有能かよりも大切なのは自信だよ」
「自分に何かができるか信じられるかどうか、それを決めるのが自信。何かを信じていなかったら、始めることすらできない。始めなければ、なにもうまくいかないんだ」
自信をつけるための方法として、マネーは「成功日記」をすすめます。成功日記には、うまくいったことをぜんぶ書く、できれば毎日うまくいったことを五つ以上書いていきます。
キーラはさっそくその日の成功を日記に書き、リストを見つめると、急に自分がえらくなったように思えました。
マネーはキーラに「デリル」という億万長者についても教えました。
デリルは8歳のとき、映画を見に行きたかったのですが、お金がなく、両親に頼むか、自分でかせぐか悩んでいました。デリルはかせぐことを決意し、レモネードをつくって街角に立ちます。しかしとても寒い冬の日だったため、デリルの両親以外は誰も買ってくれませんでした。
デリルはどうすればよいだろうかと悩み、とある実業家にこの失敗を話すと、
〈いつもほかの人のために問題を解決しようとしなさい。そうすれば、どんどんお金をかせげるようになる、それから自分が何を知っているか、自分には何ができるか何が備わっているかをつねに考えなさい〉
と教えられます。
デリルはかせぐためのアイデアがなかなか思い浮かびませんでしたが、自分の家の朝刊を取りに行ったときにふと気づきます。
「誰もがこの新聞を取りに行くのが面倒だ」、そう考えたデリルは、1ドルで朝刊をドアに挟む仕事を思いつきます。
デリルはそれに満足せず、ゴミ出しをしてかせぐなど、次々とアイデアを思いつき、億万長者への道を歩んでいきました――。
マネーはデリルの話を終え、こう続けます。
「デリルは『自分のできること』『知っていること』『自分に備わっているもの』のことだけを考えたところから始まったんだ。
そして、たいていの大人は自分にできないこと、備わっていないもの、自分が知らないことばかりに夢中になって一生を終えてしまう」
マルセルはキーラより10か月歳上の少年で、いやなやつだけど、いつもお金がありました。いまはわたしを助けてくれるかもしれない、そう思いキーラは電話し、来年交換留学でカリフォルニアに行きたい、そのためのお金を自分でかせがないといけない、ことを伝えました。
すると彼は、
「お金はどこでだってかせげるんだよ、周りを見回してみればいいだけさ。
かせぐ方法を探すには『自分が喜んでやりたいと思うことは何かをはっきりさせる』、『そのことでどうやってお金をかせげるかを考える』こと」
マルセルはすでにパン配達サービスの会社を持っており14人の固定客がいました。マルセルは自転車に乗ることが好きだったので、その延長でパン配達サービスを思いついたというのです。
しかし、キーラは何をしたらいいか、ちっとも思いつきません。マルセルから「何をするのが好きなんだ」と聞かれ、泳ぐこと、かわいい犬と遊ぶこと、と返すと、「それだよ! よその家の犬も散歩に連れていけるだろう。」マルセルの返答に、キーラはハッと気づきました。
近所の犬ならほとんど知っている、そして犬たちもわたしを知っている。それにキーラは犬が大好き。それでお金がもらえるなら……。
近所に「ナポレオン」という犬がいたことを思い出し、飼い主は散歩を楽しんでいるようではなく、犬も言うことを聞いていないことを思い出しました。
ナポレオンの主人であるハーネンカンプ夫妻に、キーラは勇気をふりしぼり、交換留学でアメリカに行きたいこと、お金をかせぎたいこと、代わりに自分がナポレオンの散歩をする、ということを伝えました。
頭が燃えるように熱くなっていたキーラを前に、その主人は優しい声で、それはすばらしいアイデアだね、と答えキーラを家に招き入れた。
ハーネンカンプ夫妻は、キーラの考えていたとおり、ナポレオンの散歩に手を焼いていたのです。夫妻からは、「毎日午後に散歩してもらいたい」「ブラシをかけてもらえば、1日200円払う」「何か芸を仕込んだら一つに2000円払う」という条件を提示され、キーラは喜んで引き受けました。
キーラは家に帰り、マネーをやさしく抱きよせ、「わたし、たくさんお金がかせげるようになったわ」と彼の耳にささやくと、マネーはうやうやしく「お手」をした。マネーはとても喜んでいるようでした。
彼女に転機があったように、マネーにも転機が訪れます。
マネーの本当の飼い主がわかったのです。
それは、ゴールドシュルテンという人で、株で莫大な財産を築き、大豪邸に住んでいました。
キーラは胸に何かがつかえながらも、父親とおばさん、マネーと共に、ゴールドシュルテンに会いにいきました。小柄なその男性はとてもやさしそうな顔をしており、キーラは不思議とその人を憎めませんでした。むしろ好印象を抱いていたほどです。
ゴールドシュルテンはキーラとマネーの関係性を見抜き、マネーを大切に世話してくれたことをキーラに感謝しました。
ゴールドシュルテンはキーラの家から数キロ離れたところで、マネーを乗せた車で事故を起こしていたというのです。彼は意識を失い、マネーも車から離れたやぶに倒れこみ意識を失いました。間もなくゴールドシュルテンは救急車で運ばれましたが、マネーが意識を取り戻したときには、車もゴールドシュルテンも消えていました。マネーは命からがらキーラの家に辿り着いたというのです。
ゴールドシュルテンの事故によるけがはまだ完全に治っていないため、キーラに世話を続けてほしい、そして週に1回は病院にマネーと共に訪ねてほしいとお願いされ、キーラは喜んでとすぐに返答しました。
約束していた訪問日に、ゴールドシュルテンの病院に着くと、マネーから教わったということはうまく隠しながら、交換留学でカリフォルニアに行きたいこと、夢日記のことを話しました。
ゴールドシュルテンはとても関心し、なぜそのようなことを知っているのかを詳しくは聞かず、すべての話を聞いていました。そして、こういいました。
「これまでマネーを世話してくれたことに対し、1日1000円の報酬を払いたい」
キーラはむっとして、お金をもらうためじゃないと返しますが、ゴールドシュルテンは笑いながら続けます。
「たいていの人はそんな風に考えるし、わたしも昔はそう思っていた。でも、どうして楽しいことをして、お金をもらってはいけないと思うんだい?
マネーが君のところで幸せにすごしてきた、そしてこれからも幸せであることをたしかめられる。君の純粋な気持ちこそが『仕事』を価値あるものにしているんだよ」
キーラは、すっかり納得したわけではありませんでしたが、自分が受け取るお金を計算していると、ゴールドシュルテンは一つ要望をつけました。
「そのうちの半分は貯金した方がいいよ」
キーラは、カリフォルニアに行きたいので全部貯金すると言いましたが、カリフォルニアに行くときに使うお金とは別に、お金持ちになるための貯金をしたほうがいい、とゴールドシュルテンはすすめます。
ゴールドシュルテンは、貯金をしたほうがいい理由を話す前に、とある農夫の話を紹介しました。
<昔あるところに若い農夫がいました。農夫が朝食用の卵を取りにガチョウの小屋に行くと巣の中で金の卵を見つけました。
農夫はその金の卵を売って盛大に酒盛りを楽しみました。翌朝、巣の中にはやっぱりまた金の卵がありました。強欲な農夫は、方法さえ分かれば自分でも金の卵を産むことができるかもしれないと考えましたが、ガチョウはその方法を教えてはくれませんでした。
怒りが募った農夫はついにガチョウを真っ二つに切り裂いてしまったのです――>
この「汝のガチョウを殺すなかれ」という教訓におけるガチョウは、貯めてきたお金です。そのお金を投資すれば、利息がもらえます。その利息こそが金の卵だと……。
しかし、カリフォルニアに行くためにすべての貯金を使うと、ガチョウを殺してしまうことにもなる。でもガチョウにも金の卵を産んでもらいたい……。
ゴールドシュルテンは、悩むキーラにアドバイスをします。
「どちらか一つだけに決める必要はないよ。両方一緒にできるんだ。
もし君が1000円をかせいだなら、大部分は銀行に入れる、それから一部は夢貯金箱に、一部は使うためにとっておくべきだ」
キーラはすっかりゴールドシュルテンの意見を尊重するようになっており、彼の言うとおりお金の分配を考え、全体の半分はガチョウのために、40パーセントを自分の目標のため夢貯金箱に、残りの10パーセントを使う、と決めました。
ゴールドシュルテンは、多くの人がお金に困って悩む理由について、核心をつく意見を述べました。
「皆がお金について困るのは、本気で考えたことがないからだよ。まだずっと若いうちに始めるのが一番なんだ」
彼女は心から礼を言い、病室を後にしました。
お金と向き合うようになってから、たくさんのことが変わったとキーラは実感します。
キーラは歴史の先生がいつも言っていたことを思い出します。
「幸運というものは、よく観察してみると、準備と努力の結果にすぎない」
これまでとはちがう方法で人々と知り合い、大人と興味深い会話もし、多くのことを学び、人生がわくわくしたものになっていきました。
そのとき、けっしてお金が第一ではないことにも気づきました。大事なのは毎日わくわくしていること。できることはすべてやってみること。そして自分に何ができるのかを考える。ということを彼女自身も気づきました。
成功日記にはうまくいったことだけを書くのではなく、何が成功につながったのかも時々書きとめるようになっていきました。そうしてわかったことは、自分には勇気があるということでした。
毎日3匹の犬にえさをやり、ブラシをかけ、一緒に散歩に行き、訓練もしています。楽ではありませんが、好きでやっています。何よりも自分がベストを尽くしているという確信をはじめてもつことができました。
これがきっと大きなちがいになっていくと確信しました。
以前はいつもこう言っていました。
「わたしはまだ本気を出していないだけ、本気で努力したら、学校の成績なんかすぐによくなるわ」
でもそれは自分が努力していないことの言い訳にすぎませんでした。いまはベストを尽くしているので、こんな言い訳は必要ありません。キーラは自分に何ができるのかがわかってきたのですから。
少女のキーラにとって、稼ぐという、“本来まだできることではなかった”ことをやってみることではじめて、自分にもできることがわかりました。
マネーという名の犬との出会い、それは簡単だけれども彼女がお金と自身についてまなぶ大きなきっかけとなりました。
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